2013年1月 5日 (土)

「家事事件手続法」施行(2013・1・1~)

「家事事件手続法」が、1月1日から施行されました。これにより従来の「家事審判法」は廃止されます(ただし、すでに裁判所に係属している事件については、引き続き家事審判法が適用されます)。

 

・・条文:http://law.e-gov.go.jp/announce/H23HO052.html

 

 この新しい法律は、家事事件(相続、離婚など)審理に非常に大きな影響があるので、以下、骨子を説明します。

 

 

<申立書写しの相手方送付>

今後は、家事調停の申立書は、原則として相手方に送付されます(256条1項、但し書きの例外あり)。

 

 ※申立書式、非開示申出書書式等

 http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/syosiki02/index.html

 ※新法に関する裁判所注意書き
    http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/kajijikennotetuzukioriyousurukatae.pdf

 

<記録の閲覧、謄写>

従来は、相当と認めるときに限り家裁が許可しなければ出来ませんでしたが、今後は、

★当事者であれば原則許可(プライバシー等に配慮した例外有:47条3、4項)

となりました。

 

<非開示希望申出>

★そこで、今後は、裁判所に提出する資料等の中に、相手方に見せてほしくないものがあるときは、「非開示の希望に関する申出書」を提出する必要があります(書式:上記HP)。

 

<調停期日の冒頭の運用変化について>

東京家裁では、調停の冒頭、双方当事者本人の立ち会いのもとでの手続き説明を予定しているそうです。ただしこれはDVや精神的な問題などで支障がある場合には実施せず、また当面は、本人がかたくなに拒否する場合は実施を見合わせるとも言われています。

 

<電話での調停参加>

当事者が遠隔地に居住しているなどのときに、家裁が相当と認めれば、電話会議システムまたはテレビ会議システムを利用して調停に参加できるようになりました(258条1項、54条)

 

<調停にかわる審判>

「別表第2」にあげられる調停(婚姻費用、離婚、相続など)についても、調停にかわる審判ができるようになりました(284条) 

(「別表」→条文参照)

 

<審判前の保全処分>

・夫婦間の協力扶助、婚姻費用、子の監護、財産分与(157条1~4項)

・親権者の指定、変更(175条1項)

・扶養の順位、程度の決定等(187条1、2号)

・遺産分割(200条2項)

について、家事調停申立てがあったときに、審判前の保全処分申立をすることができるようになりました(105条1項)。

 

★子どもの手続き上の地位に関する改正★

<子どもの意思把握に関する総則規定>

子どもが影響を受ける手続きにおいては、

・子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法によって子の意思を把握するように努め、

・調停・審判をするにあたって、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない、

との規定が置かれました(65条、258条1項)。

 

<子どもの手続き参加の制度>

・子の監護に関する処分の調停、審判(252条1項2号、151条2号)

・親権者変更の調停・審判(252条1項4号、168条7号)

・親権喪失・停止・管理権喪失の審判(168条3号)

・未成年後見人選任の審判(177条2号)

・児童福祉施設等入所措置承認・更新の審判(235条)

等、一定の事件については、子ども自身が(意思能力があれば、)手続きに参加できるようになりました(申立、当事者参加(41条)、利害関係参加(42条))。

 

<子どもの手続き代理人制度>

子どもが118条(この法律の他の規定において準用する場合を含む→親権、未成年後見等)又は252条1項(子の監護等)によって手続行為をしようとする場合に、必要があると認めるときは、子どもは弁護士を手続代理人に選任することができ(23条1項)、子どもが自分で弁護士をつけない場合にも、裁判長は職権で弁護士を国選の手続代理人につけることができるようになりました(2項)。

 

※なお、

日弁連「子どもの手続代理人の報酬の公費負担を求める意見書」

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2012/120913_5.html

 

・・長くなったので、今日はここまでにします(今後、適宜補充するかもしれません)。

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2009年1月25日 (日)

最判H21・1・22(共同相続人のうち一人からの被相続人名儀預金口座取引経過開示請求)

1月22日、相続事件の実務(相続財産状況調査)にかなり影響がありそうな最高裁判決が出ました。以下、紹介しておきます。

(裁判所HP)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=37210&hanreiKbn=01

(判決理由)
上告代理人千葉恒久,同亀井時子,同浅井通泰の上告受理申立て理由について

1 本件は,被相続人である預金者が死亡し,その共同相続人の一人である被上告人が,被相続人が預金契約を締結していた信用金庫である上告人に対し,預金契約に基づき,被相続人名義の預金口座における取引経過の開示を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1) Aは被上告人の父であり,Bは被上告人の母である。Aは平成17年11月9日に,Bは平成18年5月28日に,それぞれ死亡した。被上告人はA及びBの共同相続人の一人である。

(2) 平成17年11月9日当時,Aは上告人a支店において1口の普通預金口座と11口の定期預金口座を有しており,Bは同支店において1口の普通預金口座と2口の定期預金口座を有していた。

(3) 被上告人は,上告人に対し,A名義の上記各預金口座につき平成17年11月8日及び同月9日における取引経過の開示を,B名義の上記各預金口座につき同日から平成18年2月15日までの取引経過の開示を,それぞれ求めたが,上告人は,他の共同相続人全員の同意がないとしてこれに応じない。

3 預金契約は,預金者が金融機関に金銭の保管を委託し,金融機関は預金者に同種,同額の金銭を返還する義務を負うことを内容とするものであるから,消費寄託の性質を有するものである。
しかし,預金契約に基づいて金融機関の処理すべき事務には,預金の返還だけでなく,振込入金の受入れ,各種料金の自動支払,利息の入金,定期預金の自動継続処理等,委任事務ないし準委任事務(以下「委任事務等」という。)の性質を有するものも多く含まれている。
委任契約や準委任契約においては,受任者は委任者の求めに応じて委任事務等の処理の状況を報告すべき義務を負うが(民法645条,656条),これは,委任者にとって,委任事務等の処理状況を正確に把握するとともに,受任者の事務処理の適切さについて判断するためには,受任者から適宜上記報告を受けることが必要不可欠であるためと解される。
このことは預金契約において金融機関が処理すべき事務についても同様であり,預金口座の取引経過は,預金契約に基づく金融機関の事務処理を反映したものであるから,預金者にとって,その開示を受けることが,預金の増減とその原因等について正確に把握するとともに,金融機関の事務処理の適切さについて判断するために必要不可欠であるということができる。

したがって,金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負うと解するのが相当である。

そして,預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)というべきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。

上告人は,共同相続人の一人に被相続人名義の預金口座の取引経過を開示することが預金者のプライバシーを侵害し,金融機関の守秘義務に違反すると主張するが,開示の相手方が共同相続人にとどまる限り,そのような問題が生ずる余地はないというべきである。
なお,開示請求の態様,開示を求める対象ないし範囲等によっては,預金口座の取引経過の開示請求が権利の濫用に当たり許されない場合があると考えられるが,被上告人の本訴請求について権利の濫用に当たるような事情はうかがわれない。

4 以上のとおりであるから,被上告人の請求を認容した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

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2008年10月10日 (金)

別居中夫婦の「子どもの連れ去り」に関する最高裁決定(H17・12・6)

別居中夫婦の離婚事件を担当していると、時々、子どもの「連れ去り」の不安を述べられる方などがおられます。そこで今日は、下記裁判例を紹介します。
離婚調停中(監護権などの指定はまだ一切されていないケース)に、夫が、妻の元にいた子どもを保育園から連れ去ったケースです。

最決平成17年12月06日(原審:仙台高等裁判所)
要旨:妻と離婚係争中の夫が,妻の監護養育下にある2歳の子を有形力を用いて連れ去った行為につき,未成年者略取罪が成立するとされた事例

主文
本件上告を棄却する。
         

理由

 弁護人山谷澄雄の上告趣意は,違憲をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 なお,所論にかんがみ,未成年者略取罪の成否について,職権をもって検討する。

 1 原判決及びその是認する第1審判決並びに記録によれば,本件の事実関係は以下のとおりであると認められる。
 (1) 被告人は,別居中の妻であるBが養育している長男C(当時2歳)を連れ去ることを企て,平成14年11月22日午後3時45分ころ,青森県八戸市内の保育園の南側歩道上において,Bの母であるDに連れられて帰宅しようとしていたCを抱きかかえて,同所付近に駐車中の普通乗用自動車にCを同乗させた上,同車を発進させてCを連れ去り,Cを自分の支配下に置いた。
 (2) 上記連れ去り行為の態様は,Cが通う保育園へBに代わって迎えに来たDが,自分の自動車にCを乗せる準備をしているすきをついて,被告人が,Cに向かって駆け寄り,背後から自らの両手を両わきに入れてCを持ち上げ,抱きかかえて,あらかじめドアロックをせず,エンジンも作動させたまま停車させていた被告人の自動車まで全力で疾走し,Cを抱えたまま運転席に乗り込み,ドアをロックしてから,Cを助手席に座らせ,Dが,同車の運転席の外側に立ち,運転席のドアノブをつかんで開けようとしたり,窓ガラスを手でたたいて制止するのも意に介さず,自車を発進させて走り去ったというものである。
 被告人は,同日午後10時20分ころ,青森県東津軽郡平内町内の付近に民家等のない林道上において,Cと共に車内にいるところを警察官に発見され,通常逮捕された。
 (3) 被告人が上記行為に及んだ経緯は次のとおりである。
 被告人は,Bとの間にCが生まれたことから婚姻し,東京都内で3人で生活していたが,平成13年9月15日,Bと口論した際,被告人が暴力を振るうなどしたことから,Bは,Cを連れて青森県八戸市内のBの実家に身を寄せ,これ以降,被告人と別居し,自分の両親及びCと共に実家で暮らすようになった。被告人は,Cと会うこともままならないことから,CをBの下から奪い,自分の支配下に置いて監護養育しようと企て,自宅のある東京からCらの生活する八戸に出向き,本件行為に及んだ。
 なお,被告人は,平成14年8月にも,知人の女性にCの身内を装わせて上記保育園からCを連れ出させ,ホテルを転々とするなどした末,9日後に沖縄県下において未成年者略取の被疑者として逮捕されるまでの間,Cを自分の支配下に置いたことがある。
 (4) Bは,被告人を相手方として,夫婦関係調整の調停や離婚訴訟を提起し,係争中であったが,本件当時,Cに対する被告人の親権ないし監護権について,これを制約するような法的処分は行われていなかった。

 2 以上の事実関係によれば,被告人は,Cの共同親権者の1人であるBの実家においてB及びその両親に監護養育されて平穏に生活していたCを,祖母のDに伴われて保育園から帰宅する途中に前記のような態様で有形力を用いて連れ去り,保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから,その行為が未成年者略取罪の構成要件に該当することは明らかであり,被告人が親権者の1人であることは,その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情であると解される(最高裁平成14年 (あ) 第805号同15年3月18日第二小法廷決定・刑集57巻3号371頁参照)。

 本件において,被告人は,離婚係争中の他方親権者であるBの下からCを奪取して自分の手元に置こうとしたものであって,そのような行動に出ることにつき,Cの監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから,その行為は,親権者によるものであるとしても,正当なものということはできない。また,本件の行為態様が粗暴で強引なものであること,Cが自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること,その年齢上,常時監護養育が必要とされるのに,略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると,家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものと評することもできない。以上によれば,本件行為につき,違法性が阻却されるべき事情は認められないのであり,未成年者略取罪の成立を認めた原判断は,正当である。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,主文のとおり決定する。

 この決定は,裁判官今井功の補足意見,裁判官滝井繁男の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見によるものである。

 裁判官今井功の補足意見は,次のとおりである。
 私は,家庭内の紛争に刑事司法が介入することには極力謙抑的であるべきであり,また,本件のように,別居中の夫婦の間で,子の監護について争いがある場合には,家庭裁判所において争いを解決するのが本来の在り方であると考えるものであり,この点においては,反対意見と同様の考えを持っている。しかし,家庭裁判所の役割を重視する立場に立つからこそ,本件のような行為について違法性はないとする反対意見には賛成することができない。
 家庭裁判所は,家庭内の様々な法的紛争を解決するために設けられた専門の裁判所であり,そのための人的,物的施設を備え,家事審判法をはじめとする諸手続も整備されている。したがって,家庭内の法的紛争については,当事者間の話合いによる解決ができないときには,家庭裁判所において解決することが期待されているのである。
 ところが,本件事案のように,別居中の夫婦の一方が,相手方の監護の下にある子を相手方の意に反して連れ去り,自らの支配の下に置くことは,たとえそれが子に対する親の情愛から出た行為であるとしても,家庭内の法的紛争を家庭裁判所で解決するのではなく,実力を行使して解決しようとするものであって,家庭裁判所の役割を無視し,家庭裁判所による解決を困難にする行為であるといわざるを得ない。近時,離婚や夫婦関係の調整事件をめぐって,子の親権や監護権を自らのものとしたいとして,子の引渡しを求める事例が増加しているが,本件のような行為が刑事法上許されるとすると,子の監護について,当事者間の円満な話合いや家庭裁判所の関与を待たないで,実力を行使して子を自らの支配下に置くという風潮を助長しかねないおそれがある。子の福祉という観点から見ても,一方の親権者の下で平穏に生活している子を実力を行使して自らの支配下に置くことは,子の生活環境を急激に変化させるものであって,これが,子の身体や精神に与える悪影響を軽視することはできないというべきである。
 私は,家庭内の法的紛争の解決における家庭裁判所の役割を重視するという点では反対意見と同じ意見を持つが,そのことの故に,反対意見とは逆に,本件のように,別居中の夫婦が他方の監護の下にある子を強制的に連れ去り自分の事実的支配下に置くという略取罪の構成要件に該当するような行為については,たとえそれが親子の情愛から出た行為であるとしても,特段の事情のない限り,違法性を阻却することはないと考えるものである。

 裁判官滝井繁男の反対意見は,次のとおりである。
 私も,親権者の1人が他の親権者の下で監護養育されている子に対し有形力を行使して連れ出し,自分の事実的支配下に置くことは,未成年者略取罪の構成要件に該当すると考えるものである。しかしながら,両親の婚姻生活が円満を欠いて別居しているとき,共同親権者間で子の養育をめぐって対立し,親権者の1人の下で養育されている子を他の親権者が連れ去り自分の事実的支配の下に置こうとすることは珍しいことではなく,それが親子の情愛に起因するものであってその手段・方法が法秩序全体の精神からみて社会観念上是認されるべきものである限りは,社会的相当行為として実質的違法性を欠くとみるべきであって,親権者の1人が現実に監護していない我が子を自分の支配の下に置こうとすることに略取誘拐罪を適用して国が介入することは格別慎重でなければならないものと考える。
 未成年者略取誘拐罪の保護法益は拐取された者の自由ないし安全と監護に当たっている者の保護監督権であると解されるところ,私は前者がより本質的なものであって,前者を離れて後者のみが独自の意味をもつ余地は限られたものであると解すべきであると考える。とりわけ,本件のように行為が親権者によるものであるとき,現に監護に当たっている者との関係では対等にその親権を行使し得るものであって,対立する権利の行使と見るべき側面もあるのであるから,それが親権の行使として逸脱したものでない限り,略取された者の自由等の法益の保護こそを中心にして考えるべきものである。
 このような観点から本件を見るに,被告人は,他の親権者である妻の下にいるCを自分の手元に置こうとしたものであるが,そのような行動に出ることを現に必要とした特段の事情がなかったことは多数意見の指摘するとおりである。しかしながら,それは親の情愛の発露として出た行為であることも否定できないのであって,そのこと自体親権者の行為として格別非難されるべきものということはできない。
 確かに,被告人の行動は,生活環境についての判断・選択の能力が十分でない2歳の幼児に対して,その後の監護養育について確たる見通しがない状況下で行われたことも事実である。しかしながら,親子間におけるある行為の社会的な許容性は子の福祉の視点からある程度長いレンジの中で評価すべきものであって,特定の日の特定の行為だけを取り上げその態様を重視して刑事法が介入することは慎重でなければならない。
 従来,夫婦間における子の奪い合いともいうべき事件において,しばしば人身保護法による引渡しの申立てがなされたが,当裁判所は引渡しの要件である拘束の「顕著な違法性」の判断に当たっては,制限的な態度をとり,明らかに子の福祉に反すると認められる場合を除きこの種紛争は家庭裁判所の手続の中で解決するとの立場をとってきたものである(最高裁平成5年(オ)第609号同年10月19日第三小法廷判決・民集47巻8号5099頁,同平成6年(オ)第65号同年4月26日第三小法廷判決・民集48巻3号992頁など)。
 私は,平成5年(オ)第609号同年10月19日第三小法廷判決において,「別居中の夫婦(幼児の父母)の間における監護権を巡る紛争は,本来,家庭裁判所の専属的守備範囲に属し,家事審判の制度,家庭裁判所の人的・物的の機構・設備は,このような問題の調査・審判のためにこそ存在するのである。」として,子の親権をめぐる紛争において審判前の保全処分の活用を示唆された裁判官可部恒雄の補足意見に全面的に賛成し,子の監護をめぐる紛争は子の福祉を最優先し,専ら家庭裁判所の手続での解決にゆだねるべきであって,他の機関の介入とりわけ刑事司法機関の介入は極力避けるべきものと考える。
 このような考えに立つ以上,被告人もまたこの種紛争の解決は家庭裁判所にゆだねるべきであったのであるから,一方の親権者の下で平穏に生活している子に対し親権を行使しようとする場合には,まず,家庭裁判所における手続によるべきであって,それによることなく実力で自分の手元に置こうとすることは許されるべきことではないといえるものである。
 しかしながら,そのことから被告人が所定の手続をとることなく我が子を連れ出そうとしたことが直ちに刑事法の介入すべき違法性をもつものと解すべきものではない。
 そのような行為も親権の行使と見られるものである限り,仮に一時的に見れば,多少行き過ぎと見られる一面があるものであっても,それはその後の手続において子に対する関係では修復される可能性もあるのであるから,その行為をどのように評価するかは子の福祉の観点から見る家庭裁判所の判断にゆだねるべきであって,その領域に刑事手続が踏み込むことは謙抑的でなければならないのである。
 確かに,このような場合家庭裁判所の手続によることなく,他の親権者の下で生活している子を連れ出すことは,監護に当たっている親権者の監護権を侵害するものとみることができる。しかしながら,その行為が家庭裁判所での解決を不可能若しくは困難にしたり,それを誤らせるようなものであればともかく,ある時期に,公の手続によって形成されたわけでもない一方の親権者の監護状態の下にいることを過大に評価し,それが侵害されたことを理由に,子の福祉の視点を抜きにして直ちに刑事法が介入すべきではないと考える。
 むしろ,このような場合,感情的に対立する子を奪われた側の親権者の告訴により直ちに刑事法が介入することは,本件でも見られたように子を連れ出そうとした親権者の拘束に発展することになる結果,他方の親権者は保全処分を得るなど本来の専門的機関である家庭裁判所の手続を踏むことなく,刑事事件を通して対立する親権者を排除することが可能であると考えるようになって,そのような方法を選択する風潮を生む危険性を否定することができない。そのようになれば,子にとって家庭裁判所による専門的,科学的知識に基づく適正な監護方法の選択の機会を失わせるという現在の司法制度が全く想定していない事態となり,かつまた子にとってその親の1人が刑事事件の対象となったとの事実が残ることもあいまって,長期的にみればその福祉には沿わないことともなりかねないのである(このような連れ出し行為が決して珍しいことではないにもかかわらず,これまで刑事事件として立件される例がまれであったのは,本罪が親告罪であり,子を連れ去られた親権者の多くが告訴をしてまで事を荒立てないという配慮をしてきたからであるとも考えられるが,これまで述べてきたような観点から刑事法が介入することがためらわれたという側面も大きかったものと考えられる。本件のようなありふれた連れ出し行為についてまで当罰的であると評価することは,子を連れ去られた親権者が行為者である他方親権者を告訴しさえすれば,子の監護に関する紛争の実質的決着の場を,子の福祉の観点から行われる家庭裁判所の手続ではなく,そのような考慮を入れる余地の乏しい刑事司法手続に移し得ることを意味し,問題は大きいものといわなければならない。)。
 以上の観点に立って本件を見るとき,被告人の行為は親権者の行為としてやや行き過ぎの観は免れないにしても,連れ出しは被拐取者に対し格別乱暴な取扱いをしたというべきものではなく,家庭裁判所における最終的解決を妨げるものではないのであるから,このような方法による実力行使によって子をその監護下に置くことは子との関係で社会観念上非難されるべきものではないのである。
 このような考えから,私は被告人の本件連れ出しは社会的相当性の範囲内にあると認められ,その違法性が阻却されると解すべきものであると考える(私は,多数意見の引用する当小法廷の決定においては,一方の親権者の下で保護されている子を他方の親権者が有形力を用いて連れ出した行為につき違法性が阻却されないとする法廷意見に賛成したが,それは外国に連れ去る目的であった点において,家庭裁判所における解決を困難にするものであり,かつその方法も入院中の子の両足を引っ張って逆さにつり上げて連れ去ったという点において連れ出しの態様が子の安全にかかわるものであったなど,本件とは全く事案を異にするものであったことを付言しておきたい。)。
 以上によれば,本件被告人の行為が違法性を阻却されないとした原判決は法律の解釈を誤ったものであり,その違法は判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)

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2008年5月31日 (土)

6・14、弁護士会多摩支部「女性の法律トラブル110番」

弁護士会多摩支部では、6月14日に以下のとおり、臨時電話相談「女性の法律トラブル110番」を開設します。

(弁護士会多摩支部HPより http://210.136.139.76/whatsnew/2008/04/28/29.php )

女性の法律トラブル110番(臨時無料電話相談) 

 弁護士会多摩支部では今般、女性の法律トラブル110番を実施します。
 DV(配偶者等への暴力)・離婚・セクハラ・ストーカー・親子に関する被害・トラブルが法の規制強化に拘わらず続いています。また、これらの問題に関し、弁護士会の法律相談センターや関連機関の相談窓口にて多数の相談が寄せられています。
 弁護士会多摩支部両性の平等に関する委員会では、これら女性の悩みごとに関し、無料の電話相談を実施し、これらの問題に詳しい弁護士が、その対処の方法について法律的なアドバイスを行います。お困りの方は是非ご利用ください。

日時:平成20年6月14日(土)
   午前10時~午後2時
電話番号:042-656-2411(当日のみ)
相談対象:DV・離婚・親子・ストーカー・
     セクハラ・職場における女性の差別など
     女性の法律トラブルに関する事項全般
相談料:無料
主催:東京三弁護士会多摩支部
問合せ先:八王子法律相談センター
    (TEL042-645-4540・9451)

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2008年3月27日 (木)

親子関係不存在確認請求を「権利の濫用」とした事例(最判H20・3・18)

最高裁HPを見ていたところ、以下の判決がアップされていたので、紹介します。

相続を契機に争われた親子関係不存在確認紛争の事例で、実子側から非実子側への同確認請求が、実際に非実子であっても、この場合は権利の濫用にあたるとしたものです。

韓国民法を準拠法とする事例の判決ですが、日本法でも、同一事例であれば同様の判断となるものと思われます。

平成20年3月18日最高裁第3小法廷判決:
<韓国の国籍を有するAとその嫡出子として同国の戸籍に記載されているYとの実親子関係につきAの子であるXらが不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に、韓国民法の解釈適用を誤った違法があるとされた事例>
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=36087&hanreiKbn=01

(以下判決文抜粋:A=亡父親、上告人=非実子、被上告人=実子:適宜太字下線を付しました)
戸籍上の両親以外の第三者である丙が,乙とその戸籍上の父である甲との間の実親子関係が存在しないことの確認を求めている場合において,甲乙間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより乙及びその関係者の受ける精神的苦痛経済的不利益改めて養子縁組届出をすることにより乙が甲の実子としての身分を取得する可能性の有無丙が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機,目的実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に丙以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには,当該確認請求は,韓国民法2条2項にいう権利の濫用に当たり許されないものというべきである

そして,本件においては,前記事実関係によれば,次のような事情があることが明らかである。
ア 上告人は,A夫婦に引き取られてからAが死亡した平成5年まで30年以上にわたりAとの間に実の親子と同様の生活の実体があり,かつ,被上告人らは,平成15年まで上告人がA夫婦の実子であることを否定したことはなく,平成5年には上告人との間でAの遺産分割協議を成立させた。
イ 判決をもって上告人とAとの間の実親子関係の不存在が確定されるならば,上告人が受ける精神的苦痛は軽視し得ないものであることが予想される。また,Aの相続が問題となっていることからすれば,上告人が受ける経済的不利益も軽視し得ないものである可能性が高い。
ウ Aは,死亡するまで上告人が実子ではない旨を述べたことはなく,上告人との間で実親子としての関係を維持したいと望んでいたことが推認されるのに,Aが死亡した現時点においては,上告人がAとの間で養子縁組をすることは不可能である。
エ 被上告人らが前記のとおり上告人が取得したAの遺産の返還を求める訴訟を提起していることからすれば,被上告人らが上告人とAの実親子関係を否定するに至った動機,目的は,経済的なものであることがうかがわれる。
オ 上告人とAとの間の実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合,上告人との間の実親子関係の不存在が確定しているBが不利益を受ける可能性は否定できないが,同人はAと共に上告人を福祉施設から引き取り,実子として届出をし,上告人との間で長期間にわたり実の親子と同様の生活をしてきたのであるから,同人の不利益を重視することはできない。

以上によれば,上告人とAとの間で長期間にわたり実親子と同様の生活の実体があったこと,Aが死亡しており上告人がAとの間で養子縁組をすることがもはや不可能であることを重視せず,また,上告人が受ける精神的苦痛,経済的不利益,被上告人らが上告人とAとの間の実親子関係を否定するに至った動機,目的等を十分検討することなく,被上告人らにおいて上記実親子関係の存在しないことの確認を求めることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上の見解の下に被上告人らの請求が韓国民法2条2項にいう権利の濫用に当たるかどうかについて更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
(以上抜粋終わり)

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2007年11月17日 (土)

「養育費相談支援センター」

FPIC内に、「養育費相談支援センター」というものが立ち上がっている(平成19年10月1日:厚生労働省からの委託)ようです。

http://www1.odn.ne.jp/fpic/youikuhi/

このサイトでは、家庭裁判所で使用され、実務上も定着している「養育費算定表」もみられます。便利かと思うので、ここでも紹介しておきます。

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2007年8月31日 (金)

未成年者による認知

結婚していない未成年男性に子どもができた場合、未成年者には子どもの「認知」はできないと思っている方が、結構多いようです。

未成年者でも、自分の子どもの認知は、親の同意なしにできます

民法では、

(認知能力)

第七百八十条  認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない。

第七百八十一条  認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
 認知は、遺言によっても、することができる。

とされているからです。

したがって、男性が自分で役所の戸籍課に行って認知届を出せば、それだけで認知手続きは完了します。

実際の紛争では、女性(母親)側が認知を求めても、男性側の親がそれに反対する(または男性側が「親が反対しているからできない」と主張する)、または子どもが20歳超えてからでないとできないなどと主張するケースがみられますが(そして女性側も「未成年だから、そうなのだろう」と思ってあきらめているケースもあります)、そのような主張には、法律的な根拠はありません。男性(父親)は、自分の子どもであることが確実ならば、子どもを女性のみに押し付けず、即時きちんと認知手続きを取るべきでしょう。

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2007年7月13日 (金)

内妻の遺族年金受給権(高裁判決)

内縁の夫が死亡した場合の、内妻の遺族年金給付受給権の有無について、東京高等裁判所で以下のような判決があったようです。なお報道によれば、この夫婦は結婚5年で別居し、その後6年5カ月間、内妻との同居が続いており、一審判決は「内妻との同居期間が10年に満たなくても、男性が死亡しなければ内妻との生活は続いていた」との理由で、内妻側に遺族年金受給権を認めていたようです。離婚の際の参考にはなる判決ですので、紹介しておきます。

なお結論には賛否それぞれの意見があろうかと思いますが、判決理由中「裁判上離婚が認められる余地があるかどうかが、事実上の離婚状態だったかを判断する要素の一つになる」との部分は、ややわかりにくいように思います。「事実上の離婚状態」とは、裁判離婚の成否見込みとは別の「事実状態」の問題であって、いわば「夫婦の関係が現実問題としてもはや修復不可能」、ということではないのか、とすると「事実上の離婚状態」の判断材料の中に「裁判離婚の成否の見込み」を入れるのは疑問ではないか、とも思うのですが(ただし、判決原文に当たっていないので、それ以上の意見は留保します)。

(以下2007年7月11日産経WEBより一部引用)
「固い絆」で結ばれていても…遺族年金給付、内妻側が敗訴
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/070711/jkn070711015.htm
 病死した男性の遺族年金を受け取れるのは別居していた本妻か、それとも6年5カ月同居した内妻か-。そんな訴訟の控訴審判決が11日、東京高裁であり、小林克巳裁判長は、内妻への遺族年金支給を国に命じた1審東京地裁判決を取り消し、内妻側の逆転敗訴判決を言い渡した。
 社会保険庁によると、遺族年金が内妻に支給されるには、本妻との事実上の離婚状態がおおむね10年以上続いていることなどが条件。裁判の主な争点は「男性と本妻が事実上の離婚状態にあったか」だった。
 小林裁判長は「裁判上離婚が認められる余地があるかどうかが、事実上の離婚状態だったかを判断する要素の一つになる」と指摘。本妻との結婚関係を解消しないまま内妻と挙式した男性の行動を「身勝手」と非難した。
 そのうえで、本妻との別居生活が6年5カ月にとどまり、男性が結婚関係解消に向けた財産分割もしていなかったことなどを理由に、「裁判上で離婚が認められる余地はなく、事実上の離婚状態にあったと評価するには足りない」と結論付けた。
(以下略、以上引用終わり)

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2007年4月 5日 (木)

婚姻費用清算に関する最高裁判決

別居後裁判離婚成立までの「婚姻費用」(婚姻係属中の別居相手方の生活費負担)の清算的支払について、その可否および金額を、離婚訴訟の中でも裁判所が判断することができる、という最高裁判決が出ました(これまではそのような婚姻費用は、家裁で離婚訴訟とは別に調停や審判で処理すべきとされていました)。

実務的にはかなり意味のある判決だと思うので、紹介しておきます。

(裁判所HP:判決文)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330105806.pdf

なお判決では、以下のように説示されています。
「離婚の訴えにおいて,別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方の当事者に対し,別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払を求める旨の申立てがあった場合には,民法771条,766条1項が類推適用されるものと解するのが相当である。そうすると,当該申立ては,人事訴訟法32条1項所定の子の監護に関する処分を求める申立てとして適法なものであるということができるから,裁判所は,離婚請求を認容する際には,当該申立ての当否について審理判断しなければならないものというべきである。」

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2007年4月 1日 (日)

年金分割制度スタート

情報提供ですが、

年金分割制度がスタートしました(今日=4月1日以降に離婚してしまった夫婦が、適用対象になります)。

社会保険庁HP→ http://www.sia.go.jp/topics/2006/n1003.html

私の以前のブログにも簡単な解説が書いてありますので、そちらもご参照ください。

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