2011年12月 5日 (月)

タイムカード開示義務(大阪地判H22.7.15)

久々の更新です。

残業代支払い請求事件などで、労働者から請求をしようにも、労働時間を証明する資料等をすべて会社が保管し、こちらに開示されないために請求が困難な場合があります。
以下の裁判例は、そのようなケースにとって雇用者・被用者の実質的不平等を解消する意義があり、またそのようなケースを未然に防ぐ効果があるものとしても意義があると思いますので、紹介してみようと思いました。

「使用者は,労基法の規制を受ける労働契約の付随義務として,信義則上,労働者にタイムカード等の打刻を適正に行わせる義務を負っているだけでなく,労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のないかぎり,保存しているタイムカード等を開示すべき義務を負う」
「正当な理由なく労働者にタイムカード等の打刻をさせなかったり,特段の事情なくタイムカード等の開示を拒絶したりする行為は,違法性を有し不法行為を構成する」(大阪地判平成22年7月15日)。

 なお上記の点以外にも本件では、解雇について、職場の扱いに耐えかねた労働者が解雇予告期間中に出勤をしなかったようですが、「労働者が退職する意思を有していたからといって使用者の違法行為が適法になるわけではない」とし、違法解雇としての慰謝料も認容しています(30万円)。

(判例評釈としては、労働判例1014号35頁があります)

 というわけで以下、一部引用しご紹介します。(※読みやすくするため一部加工してあります)

<被告によるタイムカードの取り上げ等について>

 証拠(〈証拠・人証略〉,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,
①平成21年3月10日,被告は何の説明もないまま原告のタイムカードをタイムレコーダーから抜き取り,原告がタイムカードを打刻することができない状態にしたこと,
②その後原告は同月15日までタイムカードを打刻することができなかったこと,
③原告は,同月28日,被告に対してタイムカードの開示を要求したが,被告はこれに応じなかったこと,④原告は,同年1月19日から同年2月28日までの期間分のタイムカードの写しを所持していたため,これをもとに同期間分の割増賃金等を請求する形で同年4月20日,本訴を提起したこと,
④同年6月18日の本件第1回口頭弁論期日において,被告は,同年3月16日から同月27日までのタイムカードについて証拠として提出し,原告はこれに基づき割増賃金について再計算を行い,主張を補正したこと,
⑤被告は,同月1日から同月15日までの期間のタイムカードについては紛失した等として口頭弁論終結に至るまで開示しなかったこと,
⑥ただし,被告は,同期間のタイムカード打刻時刻については原告の主張する時刻を争わなかったこと
が認められる。

 労基法は,労働時間について罰則による厳格な規制下を(ママ)置くとともに(同法32条以下,同法119条),使用者みずからが労働時間の把握をすべきものとし(労基法108条,同法施行規則54条1項参照),さらに,使用者に対して賃金その他労働関係に関する重要な書類についての保存義務を課している(労基法109条)。

このように,労基法上,使用者が労働時間の把握をすべきものとされ,使用者に賃金その他労働関係に関する重要な書類についての保存義務を課しているのは,
労働者保護の観点から,労働時間についての規制を実効あらしめるとともに,仮に労働時間について契約当事者間で紛議が生じた場合には,これを使用者が作成し,保管している労働関係に関する書類によって明らかにし,労働者と使用者との間の労働条件や割増賃金等に関する紛争の発生を未然に防止し又は生じた紛争を速やかに解決することを図ったものと解するのが相当である。

 このような労基法の趣旨に加えて,

一般に労働者は,労働時間を正確に把握できない場合には,発生している割増賃金の支払を求めることができず,大きな不利益を被る可能性があるのに対して,

使用者がタイムカード等の機械的手段によって労働時間管理をしている場合には,使用者において労働時間に関するデータを蓄積,保存することや,保存しているタイムカード等に基づいて労働時間に関するデータを開示することは容易であり,使用者に特段の負担は生じないことにかんがみると,

使用者は,労基法の規制を受ける労働契約の付随義務として,信義則上,労働者にタイムカード等の打刻を適正に行わせる義務を負っているだけでなく,労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,保存しているタイムカード等を開示すべき義務を負うものと解すベきである。

そして,使用者がこの義務に違反して,タイムカード等の機械的手段によって労働時間の管理をしているのに,正当な理由なく労働者にタイムカード等の打刻をさせなかったり,特段の事情なくタイムカード等の開示を拒絶したときは,その行為は,違法性を有し,不法行為を構成するものというべきである。

 本件においては,上記認定のとおり,被告は,同月10日,原告のタイムカードを取り上げ,同月15日までの間,原告がタイムカードを打刻できないようにしたものであるが,本件全証拠によっても被告のかかる措置に正当な理由があったと認めることはできない。また,本件全証拠によっても,被告が同月28日にタイムカードの開示を求められた際にこれを拒み得る特段の事情があったと認めることもできない。

 原告は,タイムカードの打刻ができなかった期間については,客観的データのないまま割増賃金請求をせざるを得なかったこと,原告は所持していた一部のデータをもとに一部の期間の割増賃金の請求を行う形で本訴を提起したものの,本訴提起後に被告からタイムカードの開示を受けるまでは請求内容を確定させることができなかったことからすれば,本件における被告による上記のタイムカード取り上げ行為及びタイムカード開示拒絶行為により,原告は一定の精神的苦痛を受けたと認められる。この精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は10万円をもって相当と認める。

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2010年2月15日 (月)

(怒)「育休切り」

「育休切り」について相談を受けました。
「育休切り」とは、育休取得を理由とする解雇のことで、最近激増していると言われています。

さて、

妊娠・出産や産休・育休等の取得を理由にして解雇することは、法律で禁止されています。

また、正面から育休取得を理由にしない場合もあります。その場合は、①整理解雇や②懲戒解雇としての適法性が必要になります。それまで何も言われたことがないのに突然「育休が終わってからも来なくていいから」と言われたようなケースは、上記①②の要件をみたさず違法とされる可能性が高いでしょう。その場合、解雇が無効になるばかりでなく、会社からの慰謝料の支払いが必要になるケースも、十分に考えられます。

※懲戒解雇については、当ブログ2008年9月6日の記事も参考にしてください。

解雇が無効になる可能性を十分認識している会社は、解雇の形もとらず、退職勧奨→自主退職、のルートで退職させることも考えるでしょう。そのようなやり方にも、十分注意してください。解雇理由がなくかつ辞めたくない場合、退職勧奨に応じて無理に自分から身を引く必要はありません。

以上のことに思い当たる方は、辞める前に、弁護士または労働基準監督署への相談をお勧めします。

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2009年11月11日 (水)

「偽装派遣」

以下の報道をご紹介します。

「切りやすい」派遣社員、期間契約社員を大量雇用し、実態は正社員とかわらない労働をさせつつ、雇用調整時やその他会社に不都合な問題が発生した時にはあっさり切り捨てるということは、実際によく起きています。

この手法の問題については、ここ数年指摘され続けていますし、私自身もそのような相談をよく受けます。しかし、解雇後の生活や裁判の負担などを考えると、なかなか提訴までに踏み切れないのも実情です。
そのような中での提訴事例ですから、裁判所には、安易な形式論理に走らず、実態面をきちんと踏まえた判断を期待したいところです。

(以下、毎日新聞2009年11月11日から引用)
「偽装派遣」と提訴 横河電機に元女性社員、賃金損失1567万円求め
http://mainichi.jp/area/tokyo/archive/news/2009/11/11/20091111ddlk13040289000c.html
 工業用計器メーカー「横河電機」(武蔵野市)で派遣社員として勤務していた三鷹市の元派遣社員、小竹由紀子さん(42)が10日、解雇の無効と偽装派遣に伴う賃金の損失など約1567万円の支払いと地位保全を求め、地裁立川支部に提訴した。提訴後に記者会見した小竹さんは「私の周りでも泣き寝入りする人が多いが、裁判を通して同社の偽装派遣の実態を広く知ってもらいたかった」と述べた。
 訴状によると、小竹さんは05年9月に同社子会社「横河ヒューマン・クリエイト」から横河電機に派遣された。契約では労働者派遣法で期間制限を受けない専門業務に従事するとされていたが、実際には一般事務を担当しており、偽装派遣にあたると主張。本来ならば、横河電機との間で直接雇用されるべきとして、クリエイト社が受け取ったとみられるマージン料は賃金として受け取るべきだとしている。
 また、9月に派遣契約の打ち切りを通告された際にも、明確な理由を明示しないなど、解雇は無効だとしている。
(以上引用終わり)

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2008年12月23日 (火)

労基法改正~残業代割増率、有給取得について

更新をさぼっていて申し訳ありませんでした。

さぼっている間に、改正労働基準法が可決成立していますので、ご報告します。
長時間残業代の割増率をこれまでよりも引き上げたものです(その他、有給の時間単位取得に関する改正もあり)。
なお割増率1.5の基準残業時間として、当初提案の「80時間超」は、衆議院段階で「60時間超」へ修正されました。
施行は2010年4月1日予定です。

これにより、残業代割増率は、
    ~月45時間 1.25
45時間超~60時間 1.25超(=努力義務が厚労省基準に入る見込み)
60時間超~     1.5
となります。

ただし、「中小企業経営への影響緩和のため」として、「中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、60時間超を1.5とする規定は適用しない。」との除外規定が付されています。なので、残業抑止にはどこまで実効性があるか…

(以下東京新聞2008年12月5日より引用)
残業代割増率引き上げ 改正労基法成立 長時間労働抑制へ
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2008120502000248.html
 残業時間の長さに応じて残業代割増率を引き上げる改正労働基準法が五日の参院本会議で可決、成立した。二〇一〇年四月の施行。企業が労働者を残業させるコストが増え、過労死などの一因となっている長時間労働の抑制が期待される。
 これまで残業代割増率は月の残業時間の長さによらず一律で25%以上だった。改正法は残業時間ごとに三段階で割増率を設定。月四十五時間までは25%以上、月四十五時間超-六十時間までは25%より引き上げるよう労使で協議、月六十時間超は50%以上とした。
 月六十時間超50%以上の割増率は、経営体力を考慮して中小企業には当分適用せず、施行から三年後に適用を検討する。また年次有給休暇の取得を促進するため、労使協定を結べば、五日以内の有休を複数の日に分けて時間単位で取得できるようになった。
 厚生労働省は、一部労働者に残業代を支給しないホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間の規制除外制度)と併せて導入しようとしたが、世論の反発を受け二〇〇七年二月に見送った。
 同年三月、残業代割増率の引き上げだけを盛り込んだ改正法案を国会に提出。50%以上の割増率を適用する残業時間は当初、月八十時間超だったが、労組などが反対し、自民、公明、民主各党が修正に合意した。
(以上引用終わり)

※衆議院提出法律案(第一六六回 閣第八一号)
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm
 労働基準法の一部を改正する法律案
 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)の一部を次のように改正する。

 第十二条第三項第四号中「第三十九条第七項」を「第三十九条第八項」に改める。

 第三十六条第二項中「労働時間の延長の限度」の下に「、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率」を加える。

 第三十七条第一項に次のただし書を加える。
  ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について八十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 第三十七条第二項の次に次の一項を加える。
  使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。

 第三十八条の四第五項中「第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項」の下に「、第三十七条第三項」を加え、「次条第五項及び第六項ただし書」を「次条第四項、第六項及び第七項ただし書」に、「第三十六条、第三十八条の二第二項」を「第三十六条、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項」に改め、「第三十六条第二項」の下に「、第三十七条第三項」を加える。

 第三十九条第四項中「前三項」を「前各項」に改め、同条第六項中「有給休暇の期間」の下に「又は第四項の規定による有給休暇の時間」を加え、「平均賃金又は」を「それぞれ、平均賃金若しくは」に改め、「通常の賃金」の下に「又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金」を加え、「その期間について」を「その期間又はその時間について、それぞれ」に改め、「相当する金額」の下に「又は当該金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額」を加え、同条第三項の次に次の一項を加える。

  使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、第一号に掲げる労働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、前三項の規定による有給休暇の日数のうち第二号に掲げる日数については、これらの規定にかかわらず、当該協定で定めるところにより時間を単位として有給休暇を与えることができる。
 一 時間を単位として有給休暇を与えることができることとされる労働者の範囲
 二 時間を単位として与えることができることとされる有給休暇の日数(五日以内に限る。)
 三 その他厚生労働省令で定める事項

 第百六条第一項中「第三十六条第一項」の下に「、第三十七条第三項」を加え、「第三十九条第五項及び第六項ただし書」を「第三十九条第四項、第六項及び第七項ただし書」に改める。

 第百十四条中「第三十九条第六項」を「第三十九条第七項」に改める。

 第百三十六条中「第三項」を「第四項」に改める。

 附則に次の一条を加える。
第百三十八条 中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第三十七条第一項ただし書の規定は、適用しない。

※参考:労働基準法
(時間外及び休日の労働)
第三十六条  使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。
○2  厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、前項の協定で定める労働時間の延長の限度その他の必要な事項について、労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して基準を定めることができる。
○3  第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、当該協定で労働時間の延長を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の基準に適合したものとなるようにしなければならない。
○4  行政官庁は、第二項の基準に関し、第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条  使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
○2  前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
○3  使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
○4  第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

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2008年9月 9日 (火)

「ユニオンチューブ」が毎日新聞で紹介されていたので

いわく「ユニオンの楽しさ、ユニオンの役割、ユニオンの素顔などを映像を使って伝えるビデオ投稿サイト」(サイト自己紹介部分より引用)・ユニオンチューブが、昨日の毎日新聞で特集されていたので、ご紹介します。
「労働運動」を実際に目で見てみたい方、どうぞ。

「ユニオンチューブ」
http://video.labornetjp.org/

(2008年9月8日毎日新聞より一部引用)
「働くナビ:労働者の実態伝えるサイト「ユニオンチューブ」とは。」
http://mainichi.jp/life/job/news/20080908ddm013100045000c.html
 ◇団交の模様、不当労働追及集会…動画で情報交換--情報発信力向上へ、講座も
 労働者が抱える問題や働き方の実態を自らの手で伝えようとする動きが広がっている。働く者の3人に1人が非正規労働者で占められ、労働組合の組織率が18%に低迷するなど、自分以外の労働者がどんな状況に置かれているか分かりづらい現代。インターネットを通じて働く者同士が情報を交換し、つながろうという試みだ。その中心になっているのは、昨年9月にスタートした動画投稿サイト「ユニオンチューブ」(http//video.labornetjp.org/)だ。
 ユニオンチューブは、ネット上で動画を閲覧・投稿できる「ユーチューブ」と同様の仕組みで、労働組合の活動や労働問題に関する映像を紹介している。労組や労働問題の専門家らでつくる実行委員会が昨年実施した「ユニオン・Yes!キャンペーン」の一環として始まった。どういう問題に取り組んでいるのか、組合がない中で働いている人はどんな問題を抱えているのかといったテーマを映像にして投稿してもらう。
(以下略、以上引用終わり)

※「ユニオン」=労働組合のことです。

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2008年9月 6日 (土)

「懲戒解雇」とは?

 最近「何も思い当たる理由が無いのに、いきなり『懲戒』解雇された」という相談があったので、この機会に「解雇」とは何か、中でも特に「懲戒解雇」とはどのような場合に認められるのか、について説明します。

1 前提

 まず前提として、
 解雇とは、「使用者(雇い主)による労働契約の一方的な解約」です。
 経営不振など会社の人員整理上の理由による①「整理解雇」と、懲戒処分として行われる②「懲戒解雇」③「諭旨(ゆし)解雇」(そのままなら懲戒解雇となる場合に、自主退職を勧告するもの。懲戒解雇の場合には支払われない退職金が、この場合には支給されたりします。)、の3種類があります。

2 解雇できない場合

 一般論として、解雇は、以下の場合などにはできません(2、3の例外については条文参照)。
1 思想、信条、社会的身分を理由とする解雇(労働基準法3条)
2 業務上傷病による休業期間及びその後30日間(同19条)
3 産前産後の女性の労働基準法65条による休業期内及びその後30日間(同)
4 その他、労基法違反申告等を理由とする解雇、労働組合員であることや正当な労働者としての権利行使を理由とする解雇などは、もちろんできません。また、男女雇用機会均等法8条1項(男女差別禁止)、3項(婚姻・出産等を理由とする解雇の禁止)や育児介護休業法10条、16条(育休・介護休業取得による不利益取り扱い禁止)の制限もかかります。

3 就業規則上の根拠

 以下は懲戒解雇プロパーの問題です。
 懲戒解雇理由が就業規則上事前に定められていることが必要かという問題がありますが、この点裁判例には、就業規則上の根拠が必要、と読めるようなものもありますし(最判昭和54年10月30日、同平成8年3月28日)、労働法学説上も、就業規則上の定めを必要とする説が有力です。
 したがって、就業規則上の根拠がない場合には解雇は無効であると主張することも法律的には十分に理由があると思われますし、少なくとも、就業規則にまったく定めがない場合、またはそもそも就業規則自体が無い場合(ちなみに常時10人以上の労働者を使用する場合は、労基法89条により就業規則の作成義務がありますし、その中では懲戒理由についても定める必要があります(同89条9号))は、次に述べる合理性・相当性がかなり強く疑われるでしょう。

4 労働契約法(解雇権濫用の禁止) 

 また、解雇については、労働契約法に、以下の条文があります(この点については、同一内容の多数の裁判例があります)。もちろん懲戒解雇には適用があり、また合理的理由及び社会的相当性の立証責任は、使用者側にあると解されています(こちらから「不合理である・不相当である」と証明する必要はありません)。

(解雇)
第十六条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

5 解雇予告手当

 また、上記要件をクリアしている場合でも、解雇予告手当の支払いが必要になります(労働基準法20条1項)。
 但し、もし解雇が①天災事変等やむを得ない事由により事業継続が不可能になった場合②労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合は、労基署長の「除外認定」を受ければ、この支払いは不要となります(労基法20条1項、3項)。懲戒解雇の場合はこれに該当し得ます。

4 結論 
 
 以上から結論を言うと、「懲戒解雇」は使用者の専権・思いつきでできるものではありません
 違法な解雇は、慰謝料請求の対象にすらなりえます。自分の解雇の是非に疑問をお持ちの方は、以上を前提に、①自分の解雇理由が明確に告げられているか(これがなければ、そもそも理由を付さない解雇であり、解雇として無効です。労基法22条により、解雇理由を記した書面の交付を要求することもできます。)②その解雇理由は合理的といえ、社会的にも相当といえるか、を検討してみてはいかがでしょうか(とにかくまずは、知り合いの弁護士や、お近くの弁護士会法律相談センターなどに相談されることをおすすめします)

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2008年3月 2日 (日)

労働契約法が施行されています(3・1)。

3月1日付で、労働契約法が施行されています。

参考:
厚生労働省HP「労働基準情報」
労働契約法がスタート!~平成20年3月1日施行~
みんな、フェアプレーでいこう!
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/index.html
(※条文つき)

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2008年1月30日 (水)

労基署に聞いてみたのですが…

会社には、従業員に対する就業規則周知義務(労働基準法106条1項)というものがあります。

※参考条文:労働基準法
第百六条(法令等の周知義務)   使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第十八条第二項、第二十四条第一項ただし書、第三十二条の二第一項、第三十二条の三、第三十二条の四第一項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第三十八条の二第二項、第三十八条の三第一項並びに第三十九条第五項及び第六項ただし書に規定する協定並びに第三十八条の四第一項及び第五項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない

しかし実際には、就業規則がどこにあるか知らない、という方は多いのではないかと思います。
そんな場合で、就業規則を見る必要があるのに会社が「そんなの見なくていいよ」「見る必要ないじゃん」などと言って見せてくれないときは、従業員としてはどうすればいいのでしょうか。

このようなケース、実際には、破産を検討している方が退職金見込額を知るために就業規則を見たいとき(かつ、会社に退職金見込額をズバリは聞きづらいとき)などに発生します。

スジ論で言えば、就業規則を周知していないことを労働基準監督署に言えば、労基署から会社に指導が入り、見られるようになるでしょう。
ただ実際には、そんなことをすれば、誰が労基署に告発した(チクった)かはすぐにばれますから、その従業員(破産しようとしている人)は、事実上、会社にいられなくなります。

そこで就業規則は会社以外どこにあるかを考えると、あった!労基署にあります。
会社は就業規則を労基署に届け出る義務があるので(労働基準法89条)、労基署にはあるはずです。

そこで、あるとき、労基署に電話して聞いてみました。

「(…かくかくしかじか、こういうわけで、)就業規則を従業員に見せてもらえませんか?」

「できません」

「…何でですか?」

「従業員に見せるために届け出るものではないからです」

「では、どうすればいいんですか」

「会社の方に言えば、見せてくれると思います」

「でも、会社は見せてくれないんですよ?」

「見せてくれると思いますが」

「いや、だから実際に見られなかったから…」

「仮にそういうことがあったら、こちらにその旨を従業員から知らせてください。そうすればこちらから指導します」

「そんなことしたら、誰が労基署に言ったか、すぐばれるんですよ。そうしたら、会社にいられなくなるかもしれないし」

「こちらとしては、原則どおりの手続きをしていただくしかありません」

「だから、その原則では無理なときの話なんですが…」

「こちらとしては…(以下略)」

これを3回繰り返し、

「結局、その例外というのはあるんですか?ないんですか?」

「こちらとしては原則として云々…」

「原則はわかりましたので、結論を聞きたいんですが、結局その例外はあるんですか?あるとすれば、どのような基準のものですか?」

(ようやくきっぱりと)「労基署に提出されている就業規則は、従業員に開示するために提出されているものではないので、開示はできません」

…やっと最終回答に到達。

このやり取りの中で、この職員(若い方でした)が労働の現場実態をよくご存じないこともよくわかりました(もちろん、労基署の皆さんがそうだ、というわけではなく、ほとんどの方は実態に精通されていると思いますが。)。

でも、就業規則について労基署に届出義務を課するのも、最終的な趣旨は労働者(従業員)保護ということでしょ?理屈で言ってもやはり根本的な法の趣旨に反しており、おかしな回答だと思います。現状がそのような制度であるなら、改善する必要があるのではないでしょうか。

※参考条文:労働基準法

第八十九条 (作成及び届出の義務) 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二  退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

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2007年12月26日 (水)

グッドウィル事業停止と「労働者派遣」とくに「日雇い派遣」の実態

派遣業最大手のグッドウィルが、労働者派遣法違反により、ついに事業停止となる見込みです。

(以下毎日jp2007年12月22日より一部引用)
グッドウィル:2~4カ月の事業停止 港湾荷役で違法派遣--厚労省方針
http://mainichi.jp/select/biz/news/20071222dde001020003000c.html
 厚生労働省は22日、日雇い派遣大手の「グッドウィル」(東京都港区)に対し、2~4カ月の事業停止命令を出すことを決め、通知した。労働者派遣法で禁じられている港湾での荷役業務への派遣や二重派遣が処分の理由。日雇い派遣のあり方など派遣法改正の検討が進む中での大手への処分は、改正論議にも影響を与えそうだ。
(中略) 今年2月、男性(27)が、契約している会社とは別の会社に派遣される二重派遣で、港湾での荷役作業をしていたと証言。男性はその際、荷崩れによる労災事故に遭った。これを機に、東京労働局などがグッドウィルの事業所を調査していた。
 結果、他にも二重派遣があったり、法で配置が義務づけられている派遣元責任者が不在の事業所などが複数あることが分かった。同社は05年に、禁じられている建設業への労働者派遣で東京労働局から事業改善命令を受けた。今回、複数の法令違反が判明したことから重い処分になる。
(以下略、以上引用終わり)

違反法令は以下の通りでしょう。
<労働者派遣法4条>
第四条  何人も、次の各号のいずれかに該当する業務について、労働者派遣事業を行つてはならない。
一  港湾運送業務(港湾労働法 (昭和六十三年法律第四十号)第二条第二号 に規定する港湾運送の業務及び同条第一号 に規定する港湾以外の港湾において行われる当該業務に相当する業務として政令で定める業務をいう。)
(労働者派遣法:http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%98%4a%93%ad%8e%d2%94%68%8c%ad%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S60HO088&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1
<職業安定法44条>
(労働者供給事業の禁止)
第四十四条  何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
(職業安定法:http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%90%45%8b%c6%88%c0%92%e8%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S22HO141&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1
※労働者供給事業は、人を商品とするものですから(いわゆる「タコ部屋」の問題)、原則として禁止されます。そして労働者派遣法による労働者派遣は、労働者供給事業のうち一部の形態を、一定の要件のもとに特別に認めたものと解されます。

グッドウィルなど労働者派遣事業大手の業務実態については、問題が再三指摘されてきたところです。最近私が読んだ「日雇い派遣 グッドウィル、フルキャストで働く」(派遣ユニオン+斉藤貴男、旬報社:http://ameblo.jp/goodwillunion/entry-10044673012.html(グッドウィルユニオンHPより))には、これらの会社の「日雇い派遣」の実態が、赤裸々に暴露されています。

とにかく最近は派遣に絡む法律相談も多く、この法律の存在意義を考えさせられることも多くあります。現代の「タコ部屋」のような実態をみると、これは公序良俗(民法90条)に反しているるのではないかとすら思います。NHKで特集されている「ワーキングプア」、またマスコミをにぎわせる「ネットカフェ難民」、いすれも日雇い派遣が深く絡んでいます。労働者派遣法平成11年改正の当初より危惧されていた事態が、今、現実になっています。

人件費を抑制したい、または労働者を「切りたい時に切りたい」使用者には、派遣社員の利用はまさに甘い汁です。また職がない中で日々の生活を求める労働者にとって、派遣登録は一見救いの神に見えます。その需要に付け込み、一部の派遣業大手が、これまで暴利をむさぼり、搾取を繰り返し、そして疲弊した労働者を切り捨ててきました。こんな実態に、そろそろ社会によるメスを入れるべきだと思います。

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2007年12月11日 (火)

労働契約法公布(2007・12・5)

労働契約法が12月5日に公布されました。

(条文:2007年12月5日付官報)
http://kanpou.npb.go.jp/20071205/20071205g00277/20071205g002770010f.html
http://kanpou.npb.go.jp/20071205/20071205g00277/20071205g002770011f.html

なお施行については、「公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」(附則1条)とされています。

なお参考資料として、

日本労働弁護団の
「労働契約法案及び労働基準法改正法案に対する見解」(2007・4・2)はこちら
http://homepage1.nifty.com/rouben/
(「提言等」のページ内にあります)

ブログ「社会法の広場」はこちら
http://social-law.blog.ocn.ne.jp/1/

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