2013年1月 7日 (月)

<最高裁>裁判員制度の実施状況(統計データ・アンケート結果)及び裁判員制度の運用に関する意識調査の結果取りまとめ

裁判員制度の実施状況・裁判員制度の運用に関する意識調査の結果をまとめたものが、最高裁判所HPにアップされました。

裁判員制度の実施状況(統計データ・アンケート結果)及び裁判員制度の運用に関する意識調査の結果取りまとめ
http://www.saibanin.courts.go.jp/topics/09_12_05-10jissi_jyoukyou.html

この取りまとめは、
・裁判員制度の実施状況に関する統計データ
・裁判員裁判実施状況の検証報告書
・裁判員裁判の実施状況等に関する資料
・裁判員等経験者に対するアンケート調査結果報告書
・裁判員制度の運用に関する意識調査
からなっています。

※参考

最高裁の有識者懇談会・議事要旨
http://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/saibanin_kondan/index.html

東京地裁の意見交換会・議事要旨
http://www.courts.go.jp/tokyo/saibanin/l3/Vcms3_00000295.html

この取りまとめについての感想は、後日述べたいと思います。

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2010年7月 2日 (金)

最決平成17年11月29日(弁護人の被疑者・被告人に対する誠実義務)

 今日は、「弁護人が被告人の主張と異なる弁論を行うことの当否」についての最高裁決定(最決平成17年11月29日、判例時報1916号158頁、判例タイムス1197号153頁、刑事法ジャーナル5号139頁等)をご紹介します。

 事案は、殺人・死体遺棄の公訴事実について被告人が第1審公判の終盤になって従前の供述を翻し、全面否認をするようになった事案で、弁護人は被告人の従前供述を前提にした有罪を基調とする最終弁論をし、そのまま弁論を終結した第1審訴訟手続が問題となったものです。

裁判所HP:
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=50080&hanreiKbn=01

<判旨>
 所論は,本件最終弁論は,被告人の第6回公判期日以降の供述を前提とせず,第5回公判期日までの供述を前提として有罪の主張をするものであるのに,裁判所は,弁護人に更に弁論を尽くさせるなどせず,この主張を放置して結審しているから,第1審の訴訟手続は,被告人の防御権ないし弁護人選任権を侵害する違法なものである旨主張する。
 そこで検討すると,なるほど,殺人,死体遺棄の公訴事実について全面的に否認する被告人の第6回公判期日以降の主張,供述と本件最終弁論の基調となる主張には大きな隔たりがみられる。しかし,弁護人は,被告人が捜査段階から被害者の頸部に巻かれたロープの一端を引っ張った旨を具体的,詳細に述べ,第1審公判の終盤に至るまでその供述を維持していたことなどの証拠関係,審理経過を踏まえた上で,その中で被告人に最大限有利な認定がなされることを企図した主張をしたものとみることができる。また,弁護人は,被告人が供述を翻した後の第7回公判期日の供述も信用性の高い部分を含むものであって,十分検討してもらいたい旨を述べたり,被害者の死体が発見されていないという本件の証拠関係に由来する事実認定上の問題点を指摘するなどもしている。なお,被告人本人も,最終意見陳述の段階では,殺人,死体遺棄の公訴事実を否認する点について明確に述べないという態度を取っている上,本件最終弁論に対する不服を述べていない。
 以上によれば,第1審の訴訟手続に法令違反があるとは認められない。

<上田補足意見>
 私は,法廷意見に賛成するものであるが,本件が,弁護人の訴訟活動の在り方という刑事訴訟の根幹に関わる問題を含むものであることなどにかんがみ,次のとおり意見を付加しておきたい。
 刑事訴訟法が規定する弁護人の個々の訴訟行為の内容や,そこから導かれる訴訟上の役割,立場等からすれば,弁護人は,被告人の利益のために訴訟活動を行うべき誠実義務を負うと解される。したがって,弁護人が,最終弁論において,被告人が無罪を主張するのに対して有罪の主張をしたり,被告人の主張に比してその刑事責任を重くする方向の主張をした場合には,前記義務に違反し,被告人の防御権ないし実質的な意味での弁護人選任権を侵害するものとして,それ自体が違法とされ,あるいは,それ自体は違法とされなくともそのような主張を放置して結審した裁判所の訴訟手続が違法とされることがあり得ることは否定し難いと思われる。
 しかし,弁護人は,他方で,法律専門家(刑訴法31条1項)ないし裁判所の許可を受けた者(同条2項)として,真実発見を使命とする刑事裁判制度の一翼を担う立場をも有しているものである。また,何をもって被告人の利益とみなすかについては微妙な点もあり,この点についての判断は,第一次的に弁護人にゆだねられると解するのが相当である。さらに,最終弁論は,弁護人の意見表明の手続であって,その主張が,実体判断において裁判所を拘束する性質を有するものではない。
 このような点を考慮すると,前記のような違法があるとされるのは,当該主張が,専ら被告人を糾弾する目的でされたとみられるなど,当事者主義の訴訟構造の下において検察官と対峙し被告人を防御すべき弁護人の基本的立場と相いれないような場合に限られると解するのが相当である
 本件最終弁論は,証拠関係,審理経過,弁論内容の全体等からみて,被告人の利益を実質的に図る意図があるものと認められ,弁護人の前記基本的立場と相いれないようなものではなく,前記のような違法がないことは明らかというべきである。

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2010年6月 3日 (木)

「検察の正義」と「刑事訴訟における当事者主義」雑感

メガネを変えたことに誰も気づいてくれない松原です。

さて、最近、郷原信郎弁護士(元検察官)著、
「検察の正義」(ちくま新書)
「検察が危ない」(ベスト新書)
を続けて読みました。

並行して、今年も成蹊大学法科大学院刑事模擬裁判で、検察官チームの指導を担当しています。

そこで思うのは、
日本の刑事司法は、
表向きは裁判所を中心に回っているようにみえて、その実は検察官が中心となり、すべてをリードする構造になっているのではないか、ということです。

検察官が捜査の端緒につき、
起訴不起訴を決め、
起訴状によって公判の土俵を設定し、
裁判所も弁護人もその土俵設定の上で踊り、レールを進んでいく。
…語弊をおそれずに言えば、そんな感じでしょうか。
検察官役をやると、検察官の捜査および最初の起訴状によって公判のすべてが支配される(支配し、タクトをふるっている)ことを、強く感じます。

だからこそ著者の言う「検察の正義」が大事になり、この「正義」に対する無意識の信頼がこの制度設計の根幹にあるのだろうと思うのです。

この「正義」が自明のものとできなくなるのであれば、徹底的な「当事者『対等』主義」を制度設計に持ち込むしかないのでしょうね。

なお公判前整理手続開始以降よく「当事者主義」が強調されますが、これはここでいう「当事者対等主義」とは全く別物と理解してほしいと思います。また「当事者主義」が強調される場面で(とくに訴訟指揮の場面)、用語使用者がその意味を深く考えず、取り違えているのではないかと思うことが、時にあります。

田宮裕先生著、有斐閣「刑事訴訟法」(新版)には、このような記述があります(11ページ)。
「(日本の刑事訴訟制度について)公訴については、統一的な官僚組織である検察官の起訴独占主義に特色がある。…(中略)手続きはそれだけシンプルな様相を示すと同時に、検察官の事件選別機能と公判への影響が、いやがうえにも強烈となる。」
それに引き続いて、公判については以下のように記述しています。
「公判については、まず、起訴にあたり起訴状一本主義がとられて、公判が捜査を引き継ぐという旧法の観念とは無縁となり、裁判所の公平性がきわ立った。その制度的担保として当事者主義という審理方式が徹底された。…(中略)そして、被告人と検察官の実質的対等が実現されなければ当事者主義は画餅に帰するので、被告人に、消極的には黙秘権が、また積極的には、国選弁護を含む弁護権と、証拠の収集・吟味のための十分な機会が保障されることになった。」

以上の記述は「検察の正義」で示された一面をすでに喝破していたように思うのと、「当事者主義」が弁護人に「当事者主義ですからやってくださいね」と過度の対応を強いたりまたは「(検察官証明予定事実に対して)当事者主義ですから、弁護人、認否して下さいね」という対応を強いるための用語として用いられることの誤りを、すでに示しているように思います。当事者主義は公平な裁判のためのテーゼであって、検察官と弁護人がイコールの関係で張り合えるはず、張り合うべきだ、と言うためのテーゼではない、むしろ逆のテーゼです。刑事訴訟は、民事訴訟ではないのです。

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2010年4月14日 (水)

名張毒ぶどう酒事件・再審請求

少し時期が遅れましたが、以下の報道を紹介します。

私は修習時代に、布川事件の再審申立てに立ち会いました。弁護士登録当時も弁護団に誘っていただきました。したし、刑事事実認定や再審への取組みスタンスについて自分自身にまだぐらつきを感じたので、参加は見合わせました。そのときから再審事件については、個人的に(とくに、自分が参加に踏み込めなかったことから)、とくに関心を持ち続けてきました。

足利事件については、DNA鑑定に関する裁判例を学んだこともあり(科学的捜査について判断したもので、勉強すべき判例とされていました)、再審請求がされていることは知っていました。ただ、まさか今のような展開になるとは思っていませんでした。

名張事件については、江川紹子さんの「六人目の犠牲者 名張毒ブドウ酒殺人事件」(文藝春秋)などの著作があり、私も上記のような関心の経緯で、この本を司法修習生時代に読みました。当時もこの本からは、とくに法廷以外の部分で、いろいろなことを感じさせられ、考えさせられました。ただ「冤罪」という点については、自分のスタンスははっきりしたものではありませんでした。

さて、今思い返すと、当時の自分の心の中には、「本当はやっているんじゃないの?」という自分がいたと思います。正直に告白しますが、そのころの私も、偏見や、刑事裁判(検察官、裁判官)、「権力」に対する無意識の信頼を持っていました。そしてその影響は、自分の中に、確実にあったと思います。

その後自分自身で刑事弁護の経験を重ね、また今、以前より追いかけていた複数の事件が続々と再審に向かっているのを見て(ただし、今回の最高裁決定の評価は難しいとも思いますが)、思い込みの恐ろしさ、刑事裁判・権力の恐ろしさ、人間の弱さ脆さなどを、身震いをもって感じています。同じものを時間をかけて見て来て、また時間がかかったからこそ、刑事裁判のあるべき姿について、またその中での弁護士(弁護人)の役割について、少しだけ、わかってきたようにも思います。
下記の報道を読み、修習時代を思い出しながら、そんなことを考えました。

(以下毎日新聞2010年4月6日より一部引用)
名張毒ぶどう酒事件/再審の可能性 最高裁が差し戻し、農薬再鑑定命じる
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100406k0000e040053000c.html
三重県名張市で1961年、農薬入りのぶどう酒を飲んだ女性5人が殺害された「名張毒ぶどう酒事件」で、死刑が確定した奥西勝死刑囚(84)の第7次再審請求に対し、最高裁第3小法廷(堀籠幸男裁判長)は5日付で、再審開始決定を取り消した名古屋高裁決定(06年)を取り消し、高裁に審理を差し戻す決定をした。小法廷は「事件で使われた農薬と奥西死刑囚の所持品が一致するのか事実が解明されていない」と判断し、高裁に新たな鑑定を行うよう命じた。再審が開始される可能性が出てきた。
 決定は5人の裁判官全員一致の意見。事件発生から半世紀近くを経て、高裁で再審を開始すべきかどうかが改めて審理される。田原睦夫裁判官は「事件から50年近くが過ぎ、7次請求の申し立てからも8年を経過していることを考えると、差し戻し審の証拠調べは必要最小限の範囲に限定し、効率よくなされるべき」との補足意見を述べた。
(中略)
ことば 名張毒ぶどう酒事件
 61年3月28日夜、三重県名張市葛尾の公民館で開かれた懇親会に参加した女性17人が、農薬入りの白ぶどう酒を飲んで倒れ、5人が死亡、12人が重軽傷を負った。「妻と愛人との三角関係を清算しようとした」と自白したとされる奥西勝死刑囚が逮捕、起訴され、1審津地裁は「自白は信用できない」と無罪を言い渡したが、2審名古屋高裁が逆転の死刑とし、72年に確定した。過去6回の再審請求はいずれも退けられた。
(以上引用終わり)

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2010年4月 3日 (土)

拘置所での被告人面会について

立川拘置所が本格稼働し始めるに伴い、拘置所での被告人面会について質問を受けることが多くなりました。

そこで弁護人の拘置所面会の前提知識として、「夜間及び休日の未決拘禁者と弁護人等との面会等に関する申し合わせ」(法務省・日弁連)のうち被告人面会部分を掲載します。実務の参考にして頂ければと思います。

<以下、「申し合わせ」より引用>

(被告人の夜間の面会)
4 被告人の弁護人等との面会は、次の各号に掲げる場合において、夜間にも実施する。
ア 当該面会希望日から起算して5日以内に公判期日(公判前整理手続期日及び期日間整理手続期日を含む。以下同じ。)が指定されている場合
イ 上訴期限又は控訴趣意書等の提出期限が当該面会希望日から起算して5日以内に迫っている場合

(被告人の休日の面会)
5 被告人の弁護人等との面会は、次の各号に掲げる場合において、土曜日の午前中にも実施する。
ア 当該面会希望日から起算して2週間以内に公判期日が指定されている場合
イ 上訴期限又は控訴趣意書等の提出期限が当該面会希望日から起算して2週間以内に迫っている場合

(予約)
6(1)未決拘禁者との夜間又は休日の面会を希望する弁護人等は、当該面会希望日の直近の平日(当該面会希望日を含まない。)の執務時間までに、刑事施設等に対して予約をするものとする。ただし、夜間の面会について、次の各号に掲げる場合には、それぞれ当該各号に定める時点までに予約をするものとする。
ア 当該面会希望日当日に面会の必要が生じた場合(イに掲げる場合を除く) 当日午後3時30分
イ 当該面会希望日に公判期日が開かれており、翌日にも公判期日が予定されている場合 当該面会希望日の執務時間
(2) (1)の予約が行われていない場合には、職員配置の事情等により、面会が実現できないこともある。

(例外的措置)
7 上記にかかわらず、次に掲げる事情が存する場合であって、平日の執務時間内に面会を実施することが困難なときには、夜間又は休日(平日の執務時間と同一の時間)にも弁護人等との面会を実施する。
ア 弁護人等が遠隔地から来訪する場合
イ 通訳を要する事案において、通訳人が遠隔地から来訪する場合
ウ 未決拘禁者から、弁護人等に対し、別件の被疑事件について取り調べを受けたので至急面会したい旨の信書(電報及びファクシミリを含む。)が休日又はその直前に届いた場合
エ その他上記に準ずる緊急性及び必要性が認められる場合
 

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2009年10月11日 (日)

「死刑のある国ニッポン」読者レビュー(藤井誠二氏ブログより)

ノンフィクションライター・藤井誠二氏のブログ「ノンフィクションライター的日常」
http://ameblo.jp/fujii-seiji/
の10月1日記事に、
藤井氏と森達也氏の共著
「死刑のある国ニッポン」(週刊金曜日)
http://www.kinyobi.co.jp/publish/publish_detail.php?no=730
の読者レビューが掲載されています。

各コメントそれぞれに「死刑」について考えさせられる部分があるので、皆様にもお読みいただきたく、ご紹介します。

※藤井誠二氏ホームページ
「叛虚構主義」
http://fujiiseiji.ledbrain.que.jp/

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2009年9月19日 (土)

「難解な法律概念」、裁判員裁判、評議、理解

 「難解な法律概念」を裁判員裁判でどのように扱うか、が問われています。

 以下の報道は、評議の様子が一部垣間見える報道です。この質問をし、または質疑の中からこの部分を報道に載せた記者の感覚・問題意識は、とても鋭いと思いました。

(以下東京新聞2009年9月18日より一部引用)

千葉、強盗致傷適用し執行猶予 「刑法の定義分かった」
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2009091801000490.html

 適用する罪名が初めて争点となった裁判員裁判で千葉地裁(小坂敏幸裁判長)は18日、無職安田直樹被告(49)に対し検察側が主張した強盗致傷罪を適用、懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の判決を言い渡した。検察側求刑は懲役4年、弁護側は窃盗罪と傷害罪の適用を求め懲役1年6月、執行猶予3年が相当としていた。裁判員裁判での執行猶予判決は3件目で、すべて保護観察付きとなった。
 判決後、裁判員6人、補充裁判員3人の経験者全員が記者会見。強盗という言葉の印象と事件内容の違いに裁判員を務めた60代の男性は「最初はこれで強盗と思ったが、裁判長が強盗にもいろいろあるんですと丁寧に説明してくれた」とし、女性裁判員経験者は「裁判長の説明で、刑法でいう強盗の定義を理解できた」と話した。

(以下略、以上引用終わり)

なお、「市民感覚」と裁判員裁判という切り口で東京新聞2009年9月10日朝刊「特報」で特集が組まれています(私もコメントを寄せています)ので、機会があれば、お読み下さい。その記事にもあるように、「罪刑法定主義」の意義が看過されないよう、また本来必要とされる形で「市民感覚」が生かされるよう、きちんとした検証がすでに必要となっているように思います。

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2009年8月 3日 (月)

【情報提供】①被告人の着席位置②被告人の服装③手錠、腰縄

本日から、裁判員裁判が実際に始まりました。

裁判員裁判開始に伴い、いくつか刑事裁判の実務上運用に変化が生じていますが、
本日日弁連会員宛にファックスされている「日弁連ニュース」には、
①被告人の当事者席着席
②被告人の服装
③被告人の手錠、腰縄について、
の各情報が記載されています。
以下、とくに弁護士宛周知のため、アップします。

①被告人を当事者席に着席させる申し入れについて

 法務省矯正局は、6月に、「裁判所の指示により、被告人を弁護人席の隣に着席させる場合がある」旨記載した、被告人の着席位置に関する通達を発しています。また日弁連からは最高裁に対して、弁護人がこれを求めた場合は各裁判体において柔軟に対応するよう求める要望書を提出し、最高裁はこれを各地裁宛に通知するとともに、前記法務省矯正局通達の周知も行ったとのことです

②被告人の服装について

 被告人からの申出により、拘置所から、ワンタッチ式ネクタイと特殊サンダル(革靴風のもの)が貸与されます。

③被告人の手錠、腰縄について

 法務省矯正局は7月24日、裁判所から入廷前解錠(事前解錠)の方針が伝えられた場合は、刑事施設と裁判所で打ち合わせを行い、原則として事前解錠を行う旨の基本方針を定め、通達を発したそうです。

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2009年7月 6日 (月)

本日19時「報道発ドキュメンタリー宣言」

本日19時からのテレビ朝日「報道発 ドキュメンタリー宣言」のご紹介をさせていただきます。
詳細は番組下記サイトをご覧下さい。

http://www.tv-asahi.co.jp/d-sengen/

(以下上記サイトより引用)

ある日突然、犯人に
~痴漢冤罪弁護人の闘い~

「私は痴漢冤罪を闘っています」
突如身に降りかかった犯罪者という烙印。
無実を訴え、戦い続ける人々がいる。
有罪率99.9%。。。
やってないのにやったとされる人間のために闘う弁護士・秋山賢三。
痴漢冤罪事件で史上初めて最高裁で逆転無罪を勝ち取った彼の闘いに密着。

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2009年6月 6日 (土)

足利事件

足利事件について、受刑者であった菅家利和さんが釈放されたニュースが大々的に報道されています。

私たちは、菅家さんの今後の生活を支援するとともに、この事件からは、今後のための教訓を得なければなりません。そこで以下、毎日新聞2009年6月5日等を参考に、以下に時系列で事件・裁判経過を整理してみました。整理してみると、とても多くのポイントに気付かされます。ご参考に、アップします。

<経過>
90年5月13日 女児の遺体発見

91年8月 女児の半袖下着の体液と菅家さんが捨てたごみのDNA型についての「DNA鑑定」

※このゴミ袋は捜査機関による無断持ち去りとのこと

91年12月 菅家さんを逮捕、起訴

91年12月1日朝 菅家さん任意同行
同日午後10時ごろ 「自白」

 ※菅谷さん:「刑事に髪を引っ張られたり、け飛ばされたりして『早くしゃべって楽になれ』と厳しく追及された」「夜まで『自分はやっていない』と言ったが、受け付けてもらえず自白してしまった」

 ※12月1日毎日新聞
  「元運転手、きょうにも聴取 現場残存資料、DNA鑑定で一致」
  「(栃木県足利市での前年5月の女児殺害事件で、)同県警足利署捜査本部は30日までに、身辺捜査していた同市内の元運転手(45)の体液と遺体発見現場に残されていた資料をDNA(デオキシリボ核酸)鑑定で照合したところ「一致する」との鑑定結果を得た。このため捜査本部は1日朝にも元運転手に任意同行を求め、事件との関連について事情聴取を始める。(以下略)」

 ※12月03日読売新聞
  「難事件を解決したDNA鑑定」
  「栃木県足利市の河原で昨年5月、4歳の幼女が殺されていた事件で、45歳の元保育園運転手が逮捕された。容疑者は性的異常者と見られるが、自分の欲望のために、罪もない無抵抗な幼女を殺害する犯行は、憎んでも余りある。同市周辺では、昭和54年から3件の幼女殺害事件が未解決のままだ。絞殺して遺体を河原に捨てる手口などから、捜査当局は、この男との関連性を追及している。これほどの犠牲者を出す前に、容疑者を逮捕していればと思うと残念だ。(以下略)」

 ※なお、1979年、1984年の幼女殺害事件についても自白し、足利事件起訴後に再逮捕(1979年事件について)もされたが、処分保留のまま釈放、1993年1月に両方の事件とも不起訴となった。

92年2月 初公判、起訴事実を認めた

 ※証拠品の着衣を見せて確認する検察官に対して
  「これは女児のものか」「はい、そうです」
 ※菅家さん:当初の心境について
  「傍聴席に刑事がいるとびくびくしていたため、無罪を主張できなかった」

 ※ここで検察側161点証拠請求につき、弁護側はDNA鑑定に関する鑑定書3通以外の全証拠に同意したとのこと( http://www.watv.ne.jp/~askgjkn/nenn.htm

   6月 被告人質問
  「『自転車に乗るかい』と声をかけて女児を誘い、乗せたが、気が変わり、わいせつ目的が生じた。抱きついたら声を出して騒がれたので、とっさに手が首にいってしまった」

  12月 第6回公判で起訴事実を一転否認

 ※その後 裁判所に「自白」上申書提出
  …家族に無罪を訴えた手紙を書いた理由を説明する中で「心配をかけると思い無実だと書きました。(極刑かもしれないと)怖くなってやっていない、と話しました」と説明

93年1月 第7回公判で起訴事実を再び認める

   3月25日 検察側が無期懲役を求刑

      弁護側がDNA鑑定に証拠能力がないと無罪主張

   6月24日 第10回公判で再び否認。再度論告弁論、結審

   7月7日 宇都宮地裁無期懲役判決

   ※判決内容(自白の信用性、供述の変遷に関する量刑理由)は下記の通り

(※控訴審から佐藤博史弁護士受任、「一審の弁護士から『菅家さんは犯人である』と聞いていました」)

96年5月9日 東京高裁が控訴棄却

   ※判決内容(ごみ袋収集の違法性、自白の信用性)は下記の通り

00年7月17日 最高裁が上告棄却。無期懲役確定

※判決内容:「記録を精査しても、被告人が犯人であるとした原判決に、事実誤認、法令違反があるとは認められない。なお、本件で証拠の一つとして採用されたいわゆるMCT118DNA型鑑定は、その科学的原理が理論的正確性を有し、具体的な実施の方法も、その技術を習得した者により、科学的に信頼される方法で行われたと認められる。したがって、右鑑定の証拠価値については、その後の科学技術の発展により新たに解明された事項等も加味して慎重に検討されるべきであるが、なお、これを証拠として用いることが許されるとした原判断は相当である。」

02年12月 宇都宮地裁に再審請求

08年2月13日 宇都宮地裁が再審請求を棄却

   2月18日 弁護団が即時抗告

   10月 東京高検がDNA再鑑定に反対しないとの意見書提出

   12月 東京高裁の即時抗告審でDNA再鑑定を決定

09年5月18日 東京高裁が遺留物と菅家さんのDNA型が一致しないとの鑑定書を検察と弁護団に交付

   5月19日 弁護団、東京高検に対し、無期懲役刑執行停止と釈放を要請

参考:足利事件HP
http://www.watv.ne.jp/~askgjkn/
田村譲松山大法学部教授HP
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/asikagajikenn.htm
佐藤博史弁護士インタビュー記事
http://allatanys.jp/B001/UGC020006020090508COK00288.html

・地裁判決内容抜粋
(判例タイムス820号177ページ)

「そこで次に、被告人の自白の信用性について検討すると、前掲各証拠によれば、被告人は、本件により初めて取り調べを受けた当日に犯行を自白し、以後捜査段階においては一貫してこれを維持し、公判でも最終段階に至るまでほぼ自白を維持していたのであり、途中、M1を誘い出した目的など犯行の状況について捜査段階と一部異なる供述を法廷でした際にも、M1殺害という犯行の基本的部分についてはこれを認めていたこと、右自白に際して捜査官の強制や誘導が行われたことを窺わせる事情はないこと(検察官作成の捜査報告書からは、被告人は自発的に供述していることが認められる。)、捜査官や裁判官に対してだけでなく、弁護人に対してもほぼ一貫して事実を認めていたことが認められる(なお、被告人は、精神鑑定を行った医師に対しても、同様の供述を行っている。)。
 また、自白内容についてみると、例えば、第一回公判期日において、証拠物であるM1の着衣についての記憶の有無を尋ねられた際に、記憶にある物とない物、あるいはおおむね記憶に残っている物をそれぞれ区別して述べるなど、供述内容は捜査、公判段階を通じて相当具体的であるとともに、その内容は自然であって、格別疑問を差しはさむべき点は認められない。
 そうすると、本件犯行を認めた被告人の自白は信用することができ、先に挙げた事情とあいまって、被告人がM1の殺害等を行ったと認めることができる。」

「なお、被告人は、本件による起訴後間もない時期から、被告人の兄弟等に宛てた手紙に自分は無実である旨書いていたことが認められ、第六回公判期日の被告人質問において、裁判長や検察官の質問に対しては犯行を認め、申し訳ないことをしたなどと述ベていたものの、その直後に弁護人から右手紙について質問されてからは一転して犯行を否認し、第七回公判期日で再び自白に転じた。そして、犯行を認めたまま第九回公判期日で一旦弁論が終結したものの、被告人はその約二か月後に再び犯行を否認する旨の手紙を弁護人に送り、再開後の公判でも犯行を否認するに至っている。
 そこで、右否認について検討すると、被告人が否認に転じたのは、犯行への関与の有無という、まさに自分が重い刑に処せられるか、あるいは無罪となるかの分かれ目となる最も基本的部分についてであって、被告人もこの点に最大の利害と関心を持っていたはずであるにもかかわらず、第六回公判期日に至るまで弁護人に対しても事実を認めていたこと、また右期日以降も、否認を維持することが可能であったにもかかわらず、間もなく再び自白に転じたように、否認の態度自体が極めてあいまいであること、公開の法廷においてはもちろんのこと、多数の関係者に対して犯行を自白しながら、後になってそれを再三にわたり変転させたことについて、被告人自身その理由をはっきり述べていないことにも照らすと、これらの否認供述はたやすく信用しがたい。特に、右兄弟等への手紙についてみると、その内容は、拘置所での生活のつらさを訴えたり、兄弟等に対して差入れ等を要求する等の記載が主で、無実を訴える部分は付随的に書かれているものがほとんどであって、いわゆるアリバイなどを含めた無実の具体的内容に関する記載は存在しない。そして、右手紙を書いた理由につき被告人が公判で供述するところにも照らすと、被告人としては、拘置所で暮らすようになってそれまでの生活が激変し、大事件を起こしたとして肉親からの面会もなく寂しかったことから、見捨てられるのを恐れ、無実を訴えた可能性が高い。また、第六回公判期日での否認についても、その直前に、極刑を望むとのM1の両親の手紙が証拠調ベとして朗読されていることからすると、被告人は、これに動揺し、兄弟等ヘの手紙に関する弁護人の質問を契機に一時否認に転じたものと考えられる。さらに、弁論が一旦終結した後に被告人が再び否認に転じたこと及び判決を一か月後に控えた時期に弁護人に前記の手紙を出したことの理由については、判然としないところがあるが、否認の態度自体のあいまいさなどに照らして、これをたやすく信用できないことは先に述べたとおりである。
 そして、先にもみたとおり、被告人の自白が具体的かつ自然で信用できるものであり、これを裏づける客観的証拠も存在するのであるから、被告人の否認によっても先の事実認定は左右されない。」

「ところが、被告人は、被害者の両親に対して謝罪を行うでもなく、また、公判で一時「被害者に対して申し訳ない。」などと述べておきながら、最終的には犯行を否認するなど、自己の行為を真撃に反省しているとはいえない。」

・高裁判決内容
(判例タイムス922号296ページ)

「 被告人が投棄したごみ袋収集の違法性
 所論は、本件DNA型鑑定は、現場資料との異同比較の資料として、被告人が投棄したごみ袋の中のティッシュペーパーに付着していた精液を用いて行なわれたが、捜査官がこのようなごみ袋を収集して内容物を犯罪捜査に用いることは、ごみとして焼却処分されるものと了解して投棄した被告人の意思に反する事態であり、捜査官の任意捜査活動として許される範囲を逸脱し、個人のプライバシーを著しく侵害するものとして違法であるといわなければならず、また、本件の捜査では、被告人以外にも、投棄したごみ袋を捜査官に開披され内容物を見分されてしまった者が少なからずあったであろうから、このような、広範囲の、著しいプライバシー侵害を伴う捜査方法を将来にわたって抑止するためにも、本件ティッシュペーパーを証拠資料に用いることは禁止しなくてはならず、これと一体をなす本件DNA型鑑定の結果も、違法収集証拠そのものとして、証拠能力が否定されなくてはならない、と主張する。
 検討するに、関係証拠によれば、平成二年一一月初めころ、本件の被疑者として被告人が捜査の対象に浮かび、同年一二月初めから捜査員がほとんど連日にわたりその行動を密かに観察していたが、本件ティッシュペーパー五枚は、翌平成三年六月二三日、捜査員が福居町の被告人の借家付近で張り込み中に、被告人がビニール袋を右借家に程近いごみ集積所に投棄したのを認め、午前一〇時一〇分ころこれを拾得して警察署へ持ち帰り、内容物を見分して発見したものであって、警察官が特定の重要犯罪の捜査という明確な目的をもって、被告人が任意にごみ集積所に投棄したごみ袋を、裁判官の発する令状なしで押収し、捜査の資料に供した行為には、何ら違法の廉はないというべきである。」

なお高裁判決中自白の信用性判断部分については、上記判例タイムス誌上では省略されていますが、その解説中で、「結論として、被害者の半袖下着に付着していた犯人の精液を資料にして判定されたABO式血液型、ルイス式血液型の2種の血液型ばかりでなく、MCT118法によるDNAの型が被告人のそれと合致すること、被告人の性行、知的能力、生活ぶり、本格的事情聴取の初日に早くも被告人が自白し、捜査官の押し付けや誘導などがなかったことを被告人自身認めながら、犯人であればこそ述べ得るような事柄について客観状況によく符合する具体的で詳細な供述をしたことなど本件の関係証拠を総合すれば、被告人の原審の審理後半以降当審にいたる犯行否認の供述にもかかわらず、被告人が被害者を猥せつ目的で誘拐して殺害し遺棄したことを認定するについて、合理的疑いを容れる余地はないというべきである、と述べている。」と触れられています。

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