先日公表され議論を呼んでいる日弁連の「法曹人口問題に関する緊急提言」を、ここでも紹介しておきます(以下、全文貼り付け)。
法曹人口問題に関する緊急提言
2008年7月18日
日本弁護士連合会
提言の趣旨
本年度(2008年度)司法試験合格者の決定にあたっては,新しい法曹養成制度が未だ成熟途上にあることに鑑み,司法改革全体の統一的かつ調和のとれた実現を期するため,2010年頃に合格者3000人程度にするという数値目標にとらわれることなく,法曹の質に十分配慮した慎重かつ厳格な審議がなされるべきである。
提言の理由
1.本提言の意味
(1)当連合会は,法と正義を社会のすみずみにいきわたらせるという司法改革の基本理念を堅持し,人的基盤整備を含む諸制度の改革の実現を,ひきつづき力強く推進していく決意である。人的基盤整備については,2000年11月1日の臨時総会で「法曹人口については……国民が必要とする数を,質を維持しながら確保する」という決議を採択し,この基本方針に基づき積極的に推進しているところである。
同時に,当連合会は,司法試験合格者の大部分を受け入れ,かつ司法改革を現実に担っている立場から,国民に対し,司法改革全体の統一的かつ調和のとれた実現を図るために,法曹人口及び法曹養成の問題を含め,具体的提言を行っていく責務があると考えている。
(2)しかし,本年度司法試験の最終合格発表は9月11日(新)と,11月13日(旧)に予定されており,おおよそ9月上旬頃には,司法試験委員会において,新司法試験の合否判定がなされ,どの程度の合格者数となるのかが決められることから,緊急に提言をする必要があると考え,本提言に至ったものである。なお,司法試験合格者数と新法曹増加数のこれまでの推移と,本年度以降の目安とされている合格者数は,資料1のとおりである。また2001年6月12日の司法制度改革審議会意見書(以下「審議会意見書」という。)以降2007年までの司法試験合格者,司法修習終了者及び法曹三者の数の推移は資料2のとおりである(注1)。
(3)本提言は,法曹人口問題について,「法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら,平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3,000人程度とすることを目指す」(注2)という数値目標と,それに基づいて設定されている本年度の合格者数目安(注3)について,現時点における「新たな法曹養成制度の整備の状況等」に鑑み,目標数値自体にこだわることなく慎重な審議を求め,当面の法曹人口増員のペースダウンを求めるものである。今後,どの程度のペースダウンが必要か,中長期的に適正な法曹人口及びそれに到達するペース(注4)をどう考えるか等については,今後とも,会内外で十分な議論・検討を経て,提言することを予定している。
注1 裁判官,検察官の任官者数を60期並み(231名)とし,その他(法曹三者以外の者)を例年並みの1%強とすると,61期(現新計2400名)の新規登録弁護士数はおよそ2150名程度と予測される。これは司法試験合格者数の約90%が弁護士になることを示している。
注2 2002年3月19日司法制度改革推進計画(閣議決定)。
注3 2007年6月22日司法試験委員会決定「併行実施期間中(平成20年以降)の新旧司法試験合格者数について」。なお,同決定にも明記されているように,ここに示されているのはあくまで「一応の目安」であり,かつ法科大学院の「入学者の適性の適確な評価,法科大学院における教育並びに厳格な成績評価及び修了認定の在り方を更に充実させていくことを前提」としたものである(資料3)。
注4 「平成22(2010)年ころには新司法試験の合格者数の年間3,000人達成を目指す」「このような法曹人口増加の経過により,おおむね平成30(2018)年ころまでには,実働法曹人口は5万人規模に達することが見込まれる。」(審議会意見書)
2.新しい法曹養成制度について
(1)法科大学院と司法修習について
① 法曹の質の内容について,審議会意見書は,21世紀の司法を担う法曹に必要な資質として,「豊かな人間性や感受性,幅広い教養と専門的知識,柔軟な思考力,説得・交渉の能力等の基本的資質に加えて,社会や人間関係に対する洞察力,人権感覚,先端的法分野や外国法の知見,国際的視野と語学力等」を掲げている。また,日弁連法務研究財団と当連合会の研究チームは,法曹の質の要素として,人格識見,法実務能力,法創造能力,事務所経営能力,公益活動意欲の5つを掲げ,その検証を実施している(注1)。
審議会意見書は,21世紀を担う法曹に期待する理想的な法曹像を描いてみせたものであり,そのような理想的法曹に向けての教育を法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度に期待したのである。
法科大学院制度については,設置から4年余を経過し,関係者の努力によって今までにない多様な経験を持った修了生を送り出しつつあり,学生が主体的に参加する授業中心の教育も根付きつつある。
当連合会も法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度に期待し,実務家教員の派遣やエクスターンシップの受入れなど,法科大学院教育を支援してきたし,その一層の充実を目指して,今後とも支援するものである。
② しかしながら,現在,司法研修所における大量の考試(二回試験)不合格者が出ていること(資料4)を契機として,「法曹の質」の低下が指摘されている。ここで,低下が指摘されている法曹の質は,様々な質の要素のうちの一つである,基本的な法的知識や法的理解力などを指しており,法曹として第一歩を踏み出すにあたって,等しく必要最低限度として求められるものである。
③ また,法科大学院の認証評価の結果によると,一部の法科大学院において,厳格な成績評価・修了認定がなされていないこと,教員が不足しがちで教員の一部に過大な負担がかかっていること,理論と実務を架橋する教育が不十分であることなどが指摘されており,審議会意見書が求めた理想的法曹に向けての教育が十分に行われているか不安視させるものがある。
審議会意見書は,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を整備するとしていた(注2)が,法科大学院間での教育内容・水準のばらつきはかなり大きく,また,多くの法科大学院の現行カリキュラムと司法修習との連携不足から,プロセスとしての新しい法曹養成制度は,未だシステムとして確立しているとは言い難い。
そもそも,法科大学院修了時及び司法修習終了時に備えるべき「法曹の質」が未だ明確にされてはおらず,このことが法曹養成の現場に混乱をもたらしているとも言われている。法科大学院を修了して司法試験に合格した者の法曹の質の検証は,まさにこれからである(注3)。
また,これらの諸問題の基底にある問題として,法科大学院の数や学生定員が制度設計時の想定をはるかに超えていること,法曹養成を担う関係機関の間の連携が不十分であることなどが多くの関係者から指摘されている。
④ さらに,司法試験合格後の司法修習期間が,従来に比べ大幅に短縮され,前期修習も行われなくなったにもかかわらず,法科大学院教育との架橋が不十分なため,司法修習に期待される十分な教育・養成が行われる態勢にあるとは言い難い。
⑤ このように法科大学院の現状,司法修習自体の不十分な態勢,法曹養成を担う関係機関の連携不足などが重なり,新しい法曹養成制度は,現在までのところ成熟するに至っていない。
注1 日弁連法務研究財団「法と実務」第6号「法曹の質の検証方法に関する研究」(2006年)及び「法曹の質に関する研究」(2007年)。なお同書は,法的知識をオブジェクト・レベルの知識とメタ・レベルの知識に分け,前者は法令・判例・学説等の知識(の量)であり,後者は事案から関連し得る法にあたりをつける嗅覚,あたりをつけた法を正確に調査するリーガル・リサーチ能力,法規範や判例法を操作(解釈)する能力,法規範を新たに創造し立法者や裁判所に対し説得する能力,法的知識を常にアップデイトし続ける能力などをいうとし,このメタ・レベルの知識こそが法曹の質としての法実務能力の本質であるとする。
注2 「法曹養成制度については,21世紀の司法を担うにふさわしい質の法曹を確保するため,司法試験という「点」による選抜ではなく,法学教育,法試験,司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を整備することとし,その中核として,法曹養成に特化した大学院を設ける。」(審議会意見書)
注3 中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会は,2008年3月27日,第1ワーキンググループ「入学者の質の確保に関する検討」,第2ワーキンググループ「修了者の質の確保に関する検討」に着手し,2009年3月末までにとりまとめがなされる予定である。
(2)OJT による弁護士育成システムの整備について
① 従来,法曹は,オン・ザ・ジョブ・トレーニング(以下「OJT」という。),すなわち,先輩法曹による実務を通じての指導・教育がなされてきており,それが新規法曹の法実務能力をはじめ法曹としての倫理・能力・資質涵養の重要な機会とされてきた。司法修習期間が短縮され,法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度が未だ成熟途上にある今日,OJTの重要性は今まで以上に増していると言える(注1)。
ところが,新規登録弁護士の増大に伴う採用問題(法律事務所に勤務弁護士として採用されることが困難な事象を指す-注2)は,OJTによる弁護士育成を困難としつつある。OJTは,法律事務所に入所し,事務所の先輩から実務を通して指導・教育を受けるという弁護士育成システムの重要な機能として位置付けられていた。しかし,新規登録弁護士の採用問題が深刻化する今日,勤務弁護士として採用されない新規登録弁護士は,即独(新規登録と同時に独立開業する)弁護士とならざるを得ないが,即独弁護士のかなりの部分は,法曹倫理を含む法実務教育の補完・強化の機能を有するOJTを経ることのないまま単独で実務に当たることとなり,このような即独弁護士が急増した場合,市民,国民の権利擁護に支障が生じないか憂慮されるところである(注3)。
② しかも,この採用問題は,来年度以降も厳しいことが予測される。当連合会は,全国の法律事務所のうち7割を占める一人事務所に対し積極的な採用の働きかけを展開しているものの,勤務弁護士を採用することによる事務所経費の負担の増大を吸収し得る経済的基盤の拡充を予測することは困難であり,急増する採用志望者を吸収し得る法律事務所が増加するには,一定の時間的猶予が必要である。その一定の時間的猶予の期間は,今後の司法改革の進展による司法基盤の整備状況(後述)と法的需要拡大の状況によるが,それらは未だ道半ばと言わざるを得ない。
③ 採用問題に関し,当連合会は,採用説明会,求人求職システムの構築などの組織的・積極的な採用促進の活動を展開している。しかしながら,現在のところ,現61期及び新61期について例年並みの採用の確保ができるかどうかの目途は立っていない。
また,即独弁護士に関しては,開業支援プロジェクトチームを新たに設置し,即独弁護士に対し,OJTに近づくべくe-ラーニングの研修(注4)を立ち上げるなどの努力を続けてはいるものの,OJTの代替としては限度がある。いずれにせよ,これらの新規登録弁護士の法曹倫理を含む法実務教育を補完・強化するOJTに近づける研修制度,態勢の構築・整備には,なお相当程度の時間的猶予が必要である。
注1 なお,裁判所や検察庁は,採用後の研修等にかなりの力を入れていることもあり,組織的なOJTは充実している。
注2 2007年度(60期)は,旧司法試験合格者(現60期)の司法修習終了者1397名と法科大学院卒1期生による新司法試験合格者(新60期)の同終了者979名の合計2376名が,任官者(231名)を除き,志望どおりに法律事務所に採用されるかが問題となった。結果的には,日弁連・各弁護士会挙げての採用促進活動も奏功してか,ほぼ例年並みの採用(未登録,進路未定者が1~2%程度に収まる)が確保された。しかし,現新61期合計2383名の採用状況は,途中経過ではあるが,昨年度をかなり下回っており,厳しい見通しである。
注3 医師の研修医制度導入の際の議論が参考になろう。
注4 既に配信されている新規登録弁護士向けe-ラーニングのコンテンツの内容は,弁護士として最低限習得しておくべき法的基本知識や法的技法を補完する6編の初級編であり,今後,さらにこれを増やし内容の充実を目指している。なお,現在新規登録弁護士の3人に1人が受講登録している。
(3)小括
以上のとおり,法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度が成熟途上にあることから,新規法曹の質とりわけ法的基本知識や基本的法実務能力の習得度が懸念されており,OJTも全ての新規登録弁護士が受けられないおそれが現実化している。法科大学院の成熟と,それと有機的関連をもった司法修習の充実,そしてOJT及びこれに準じた弁護士育成(研修)体制の整備等のためには未だ時間を要する。このような状況の中で2010年頃までに3000人程度との数値目標のみを追求することは,法的基本知識が不十分であったり,法曹倫理を含む法実務能力に不安がある新規法曹を出現させることになりかねず,ひいては市民,国民の法的権利擁護に支障が生ずるとの懸念がある。このことに鑑みれば,市民,国民の求める法曹の質を維持する視点から,2010年頃に3000人程度との増員数値目標にとらわれることなく,司法試験合格者の決定にあたっては慎重かつ厳格な審議検討を必要とするものと考え,本提言を行うものである。
当連合会としても,法科大学院,司法研修所,実務修習のそれぞれの法曹養成の役割を改めて整理し,一貫した法曹養成体制を構築すべく,関係者間の調整のもとに検討を行っていく。法曹養成関係機関と協働して,各段階における各試験の相関性を検証し,各段階のあるべき到達度を明確にすることを目指す。他方,法曹の質の本質に迫り,その検証を通じて求めるべき法曹像を示し,法曹養成システムに反映することを目指す。
これらの検討作業を通して,司法試験合格者の数と質の関連性を鋭意検討し,弁護士の質の維持・向上に努力していく所存である(注1)。
注1 弁護士の過疎偏在問題,2009年裁判員裁判実施及び被疑者国選弁護制度の大幅拡大への対応態勢問題については,本提言で詳述することはしないが,第一に,これらの問題については,当連合会としても着実に施策を講じてきておりその成果は確実にあがっている(過疎地域のうち「ゼロ地域」が本年6月に解消し,裁判員裁判及び被疑者国選弁護制度拡大への対応態勢も各弁護士会の協力により整いつつある)こと,第二に,これらの問題は法曹人口を急激に増やすことでは解決できない問題であること,を指摘しておきたい。
3.司法改革の統一的な実現を目指して
本提言は,司法改革全体の統一的な実現を目指すという視点から,法曹人口とりわけ司法試験合格者の約90%が登録する弁護士人口の急増ペースについて,再検討を求めるものでもある。法曹人口の増加は,司法制度改革審議会等が提言した諸般の基盤整備と一体となって有機的関連性をもって統一的に行われなければならない。
このような視点から,審議会意見書が指摘した司法改革の基盤整備の状況を概観し,関係各位にその実現に向けて強くアピールするとともに,本提言の背景について一層の理解を求める。
(1)司法改革の基盤整備の状況について
① 審議会意見書は,「国民の期待に応える司法制度」(制度的基盤の整備),「司法制度を支える法曹の在り方」(人的基盤の拡充),「国民的基盤の
確立」(国民の司法参加)を司法改革の3本の柱として,「これら司法制度に関わる多岐にわたる改革は,相互に有機的に関連しており,その全面的で統一的な具体化と実行を必要としている」と記述する。人的基盤の拡充は,それ自体重要なものであるが,弁護士人口の拡充のみが先行することとなれば,有機的関連を欠くものとなり,全面的統一的な具体化と実行を困難にすることとなりかねない。
上記のような司法改革の実現のためには,司法予算の拡充を含め財政面での十分な手当てをすることが不可欠であり,これとあいまって法曹の人的基盤の拡充をはかるべきである。司法改革が目指す司法の容量の拡充は司法予算の増大を不可避とするものであり,審議会意見書も,財政上の措置について,政府に対して特段の配慮を求めている(注1)。
② 人的基盤の拡充について,審議会意見書は「種々の制度改革を実りある形で実現する上でも,その直接の担い手となる法曹の質・量を大幅に拡充することは不可欠である」と指摘する。弁護士人口は過去10年(1999年~2008年)で17,283名から25,062名と実に45%急増しているのに比し,1998年~2007年間の裁判官は2,113名から2,610名の23.5%増,検察官は1,274名から1,634名の28.3%増と,著しいアンバランスが生じている(資料2)。また,地家裁支部の統廃合や小規模庁の整理・合理化がなされたこともあり(資料5),裁判所・検察庁の縮小傾向や地域格差の広がりが看取される。裁判所・裁判官の拡充・増員とこれに伴う検察庁・検事の拡充・増員があってこそ,弁護士増員による全体の司法アクセスの拡充が調和的に図られるのであり,国民の法的ニーズへの十全な充足が達成されるのである。審議会意見書は「裁判官,検察官を大幅に増員すべきである」とし,「裁判所書記官等の裁判所職員,検察事務官等の検察庁職員の……適正な増加を図っていくべきである」とも指摘している。
③ 審議会意見書は,制度的基盤整備として司法制度の再構築をうたい「司法へのアクセスを拡充するため,利用者の費用負担の軽減,民事法律扶助の拡充,司法に関する総合的な情報提供を行うアクセス・ポイントの充実等を図る」としている。
ア 「利用者の費用負担の軽減」については,「提訴手数料については,スライド制を維持しつつ,必要な範囲でその低額化を行うべきである。」,「簡易裁判所の少額訴訟事件提訴手数料については,定額制の導入を含め検討を加え,必要な措置を講じるべきである。」としているが,これが未だ十分には実現されていない。日本の民事訴訟件数が諸外国に比して少ない理由の1つに提訴手数料が高額であることが挙げられており,この点が法的需要の顕在化を阻害する諸要因の一つであるといえる。
イ 「民事法律扶助の拡充」については,上記のとおり法律扶助予算を含む司法予算の拡充が不可欠である。司法予算の推移及び法律扶助予算と主な諸外国の比較は資料6,7,8のとおりであり,日本の法律扶助予算の少なさが際立つ。
ウ 「情報提供を行うアクセス・ポイントの充実」については,日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)におけるコールセンターにおいて実現してはいるものの(コールセンターへのアクセス数の推移は資料9),広報不足等の理由もあるが,相談件数も頭打ち状態にあり未だ国民に広く浸透しているとはいえない(注2)。
④ 訴訟費用保険(権利保護保険,弁護士保険)について,審議会意見書では,「訴訟費用保険の開発・普及に期待する」とあり,当連合会でも,これを積極的に推進し,近時目覚ましい普及が見られるものの,未だ途上にある(資料10)(注3)。
⑤ 国選弁護報酬は,法テラス設立以降成果主義を加味するとはいえ,平均的に低減化している(資料11)。日弁連は全力を挙げて回復と増額に向けて働きかけをしているものの,未だ実現されていない。国選弁護報酬の適正化は,裁判員制度の実施や被疑者国選弁護制度の拡大にあたっても不可欠である。
⑥ 被害者が多数に及ぶものの各被害者の損害額は少額にとどまる事件についての団体訴権やいわゆるクラスアクション制度の導入を検討すべきとされているが,未だ整備されていない。
⑦ 組織内弁護士についての取組みのうち,国家公務員については,今次通常国会において,国家公務員制度改革基本法が成立し,専門職職員登用制度が今後実現されるものと期待されるが,現行制度のもとでは弁護士が弁護士登録を維持したまま公務員としての職に就く分野は限られている。また,地方自治体の組織内弁護士採用は,制度的な手当ても遅れており,採用に向けた動きもほとんど見られない状況にある。
一般企業における組織内弁護士の活用についても,徐々に増加しているものの,当初の想定とはほど遠い状況にあり,弁護士側・企業側双方の相互理解と意識改革を含めた努力が求められる。
(2)以上,人的基盤整備とともに拡充されるべき制度的基盤の諸課題が未整備のままであり,これらの課題は,いずれも法的需要の顕在化と司法アクセスの拡充にとって必須のものである。これら司法改革の制度的基盤の整備がなされないまま,人的基盤である法曹人口の増大だけが先行すること,そして法曹の質の確保との調和がとられないままに法曹人口のみの急激な増大が図られることは,三権の一翼を担う司法制度の健全な発展を歪める結果になりかねない。
人的基盤整備と司法改革全体の統一的かつ調和のとれた実現を図るために,当連合会は,政府をはじめとして最高裁判所,検察庁等関係者に対して,改めて強くその実現に向けた具体的取組みを求めるとともに,自らも全力を挙げてその実現に取り組む所存であることを述べ,結語とする。
注1 「裁判所,検察庁等の人的体制の充実を始め,今般の司法制度改革を実現するためには,財政面での十分な手当てが不可欠であるため,政府に対して,司法制度改革に関する施策を実現するために必要な財政上の措置について,特段の配慮をなされるよう求める。」(審議会意見書)
また,司法制度改革審議会設置の原動力となった1998年6月の自由民主党司法制度特別調査会報告「21世紀の司法の確かな指針」は,審議会設置とともに,「司法分野の予算措置に対する格別な配慮」を求めていた。
注2 法テラスの調査によると,法テラスの認知度は国民の2割程度であるとされている。
注3 権利保護保険(弁護士保険)加入者は,近年,前年比100%以上の増加率で拡大しており,権利保護保険による弁護士紹介は,加入者の伸び率を上廻る増加率で増えている(資料10)。
以上