2013年7月18日 (木)

成年後見と金融機関窓口対応(後見実務)

後見業務を行っていると、銀行窓口でいろいろと理屈に合わない苦労をすることがあります。

先日も、ある大手銀行で後見管理用の口座を作成しようとした際に、銀行が成年被後見人の本人確認で保険証等の原本を要求する姿勢を譲らなかったことがありました(結局、他の銀行で口座を開設しました)。

その銀行は、そのような扱いは「全銀協の方針です」と言っていたのですが、これはまったく事実に反します。

全銀協(全国銀行協会)は、平成23年2月17日に「成年後見制度に係る銀行実務上の対応の見直し」と題する通知を各銀行に発しています。
そこでは、以下の③にあるように、後見登記事項証明で被後見人の本人確認は足りる、とする方法を許容しています。こんなことを窓口で言われた方のために、情報提供をしておきます。

ーーー
<通知内容>

①新規口座開設時等の場面での成年後見登記に関する登記事項証明書について「必ずしも原本自体を銀行で保管しなくてもよいと考えられる。」

②後見人等の選任届出時および新規口座開設時の後見人等の本人確認について「成年後見登記に関する登記事項証明書および犯罪収益移転防止法が定める本人確認書類の提示・提出のみを受けることも考えられる。」(後見人等の実印および印鑑証明書の提示・提出は不要とする考え方)、

③後見人等の選任届出時および新規口座開設時の場面での被後見人等の本人確認について「成年後見制度に係る登記事項証明書には被後見人等の住所・氏名・生年月日が記載されており、犯罪収益移転防止法施行規則第4条第1項第1号トに定める『官公庁から発行され、又は発給された書類その他のこれに類するもので、当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があるもの』に該当するので、成年後見登記に関する登記事項証明書により被後見人等の本人確認を行うことも考えられる。」(被後見人の免許証・健康保険証等の本人確認書類は不要とする考え方)
ーーー

なおこの通知の交付を求めたところ、その銀行からは拒否されました。そのかわりの参考資料として、リーガルサポートさんの下記HPへのリンクを、ここに貼っておきます(上記①~③もこの要望書内での整理によりますが、通知の内容は私も実物を見ておりますので、正確だと思います)。

「成年後見制度に関する届出」及び「成年後見人等が行う金融機関取引」等に関する改善について(要望)
(公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート)
http://www.legal-support.or.jp/data/120201kinyukikan-anke/01-kinyukikan-anke-youbousho.pdf

ついでと言っては何ですが、「法定後見実務改善と制度改正のための提言」(平成20年7月 日本成年後見法学会 制度改正研究委員会)もリンクを貼っておきます。こうやってみると、この5年で改善が進んだことも、結構ありますね。
http://jaga.gr.jp/pdf/H19_seidokaisei.pdf

こちらは日弁連による各金融機関向けアンケート「成年後見制度に関する取扱いについてのアンケート」の集計結果、分析と考察(平成21年10月8日)です。
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/committee/list/data/seinenkouken_anquet_result.pdf
ちょっと前のアンケートですが、これも参考になりますので、載せておきます。

とりあえずこんなところでストレスがかからないように、また無駄な時間がかからなくなるように、金融機関窓口での後見実務の改善を強く期待したいところです。

|

2012年9月28日 (金)

障害者虐待防止法の施行(10/1)

10月1日、障害者虐待防止法が施行されます。これで、児童・高齢者・障害者に対する各虐待の防止法ができた、ということになります。

法文は末尾に貼り付けましたので、ご参照ください。

なおこの法律でいう「障害者」とは、障害者基本法2条1号に規定するものと同じで、
「障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう」
とされます(なお、障害者手帳の取得は要件となっていません)。

またこの法律に言う「虐待」として、
①身体的虐待
②性的虐待
③心理的虐待
④放棄・放任(ネグレクト)
⑤経済的虐待(年金を渡さない、など)
があげられ、

さらに
①養護者による虐待
(家族、親族、同居人など)
②障害者福祉施設従事者等による虐待
(施設職員など)
③使用者による虐待
(障害者を雇っている事業主など)
と、主体に着目して、3種類の虐待が規定されています。

7条、16条、22条には、虐待発見者の通報義務が定められています(但し、学校や病院での虐待は通報の対象外となっており、学校や病院での虐待について、学校は校長、病院は管理者に、防止や対応を義務づけるにとどめています。例えば、必要な医療行為をするための抑制行為等と「虐待」の区別が困難、という理由のようです)。
)。
通報を受けた自治体は、安全確認・保護・施設や会社への指導や処分・後見人選任申立等を行うことが想定されます。ここでの初動対応が鍵になりますから、これを受けて、各自治体の実効的な体制整備が強く求められています。
なお対応窓口としては、全自治体に、家族の相談や支援にあたる「市町村虐待防止センター」と、関係機関の調整も行う「都道府県権利擁護センター」が置かれることになっています。

 ※参考:「市町村・都道府県における障害者虐待の防止と対応」
(平成24年3月 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 地域移行・障害児支援室)
 http://www.pref.tochigi.lg.jp/e05/welfare/shougaisha/sesaku/documents/kunitaioumanyuaru.pdf

この法律の施行により、緊急状況にある被害者の救出、被害回復が少しでも可能になるように願います。
また根本的には、虐待の背景要因を社会がきちんと理解し、それを軽減していく工夫が必要です(本法律14条等にも見られる視点です)。この法施行で足れりとせず、さらに対策が進むことを強く望みます。

ーーーーー
(以下条文)

障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律
(平成二十三年六月二十四日法律第七十九号)

最終改正:平成二四年八月二二日法律第六七号

 第一章 総則(第一条―第六条)
 第二章 養護者による障害者虐待の防止、養護者に対する支援等(第七条―第十四条)
 第三章 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の防止等(第十五条―第二十条)
 第四章 使用者による障害者虐待の防止等(第二十一条―第二十八条)
 第五章 就学する障害者等に対する虐待の防止等(第二十九条―第三十一条)
 第六章 市町村障害者虐待防止センター及び都道府県障害者権利擁護センター(第三十二条―第三十九条)
 第七章 雑則(第四十条―第四十四条)
 第八章 罰則(第四十五条・第四十六条)
 附則

   第一章 総則

(目的)
第一条  この法律は、障害者に対する虐待が障害者の尊厳を害するものであり、障害者の自立及び社会参加にとって障害者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等に鑑み、障害者に対する虐待の禁止、障害者虐待の予防及び早期発見その他の障害者虐待の防止等に関する国等の責務、障害者虐待を受けた障害者に対する保護及び自立の支援のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による障害者虐待の防止に資する支援(以下「養護者に対する支援」という。)のための措置等を定めることにより、障害者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって障害者の権利利益の擁護に資することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「障害者」とは、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)第二条第一号に規定する障害者をいう。

2  この法律において「障害者虐待」とは、養護者による障害者虐待、障害者福祉施設従事者等による障害者虐待及び使用者による障害者虐待をいう。

3  この法律において「養護者」とは、障害者を現に養護する者であって障害者福祉施設従事者等及び使用者以外のものをいう。

4  この法律において「障害者福祉施設従事者等」とは、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)第五条第十一項に規定する障害者支援施設(以下「障害者支援施設」という。)若しくは独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園法(平成十四年法律第百六十七号)第十一条第一号の規定により独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園が設置する施設(以下「のぞみの園」という。)(以下「障害者福祉施設」という。)又は障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第五条第一項に規定する障害福祉サービス事業、同条第十六項に規定する一般相談支援事業若しくは特定相談支援事業、同条第二十四項に規定する移動支援事業、同条第二十五項に規定する地域活動支援センターを経営する事業若しくは同条第二十六項に規定する福祉ホームを経営する事業その他厚生労働省令で定める事業(以下「障害福祉サービス事業等」という。)に係る業務に従事する者をいう。

5  この法律において「使用者」とは、障害者を雇用する事業主(当該障害者が派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)である場合において当該派遣労働者に係る労働者派遣(同条第一号に規定する労働者派遣をいう。)の役務の提供を受ける事業主その他これに類するものとして政令で定める事業主を含み、国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をする者をいう。

6  この法律において「養護者による障害者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
一  養護者がその養護する障害者について行う次に掲げる行為
イ 障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。
ロ 障害者にわいせつな行為をすること又は障害者をしてわいせつな行為をさせること。
ハ 障害者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
ニ 障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイからハまでに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
二  養護者又は障害者の親族が当該障害者の財産を不当に処分することその他当該障害者から不当に財産上の利益を得ること。

7  この法律において「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」とは、障害者福祉施設従事者等が、当該障害者福祉施設に入所し、その他当該障害者福祉施設を利用する障害者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障害者について行う次のいずれかに該当する行為をいう。
一  障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。
二  障害者にわいせつな行為をすること又は障害者をしてわいせつな行為をさせること。
三  障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応又は不当な差別的言動その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
四  障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、当該障害者福祉施設に入所し、その他当該障害者福祉施設を利用する他の障害者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける他の障害者による前三号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の障害者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
五  障害者の財産を不当に処分することその他障害者から不当に財産上の利益を得ること。

8  この法律において「使用者による障害者虐待」とは、使用者が当該事業所に使用される障害者について行う次のいずれかに該当する行為をいう。
一  障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること。
二  障害者にわいせつな行為をすること又は障害者をしてわいせつな行為をさせること。
三  障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応又は不当な差別的言動その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
四  障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、当該事業所に使用される他の労働者による前三号に掲げる行為と同様の行為の放置その他これらに準ずる行為を行うこと。
五  障害者の財産を不当に処分することその他障害者から不当に財産上の利益を得ること。

(障害者に対する虐待の禁止)
第三条  何人も、障害者に対し、虐待をしてはならない。

(国及び地方公共団体の責務等)
第四条  国及び地方公共団体は、障害者虐待の予防及び早期発見その他の障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の迅速かつ適切な保護及び自立の支援並びに適切な養護者に対する支援を行うため、関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努めなければならない。
2  国及び地方公共団体は、障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援並びに養護者に対する支援が専門的知識に基づき適切に行われるよう、これらの職務に携わる専門的知識及び技術を有する人材その他必要な人材の確保及び資質の向上を図るため、関係機関の職員の研修等必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
3  国及び地方公共団体は、障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援並びに養護者に対する支援に資するため、障害者虐待に係る通報義務、人権侵犯事件に係る救済制度等について必要な広報その他の啓発活動を行うものとする。

(国民の責務)
第五条  国民は、障害者虐待の防止、養護者に対する支援等の重要性に関する理解を深めるとともに、国又は地方公共団体が講ずる障害者虐待の防止、養護者に対する支援等のための施策に協力するよう努めなければならない。

(障害者虐待の早期発見等)
第六条  国及び地方公共団体の障害者の福祉に関する事務を所掌する部局その他の関係機関は、障害者虐待を発見しやすい立場にあることに鑑み、相互に緊密な連携を図りつつ、障害者虐待の早期発見に努めなければならない。
2  障害者福祉施設、学校、医療機関、保健所その他障害者の福祉に業務上関係のある団体並びに障害者福祉施設従事者等、学校の教職員、医師、歯科医師、保健師、弁護士その他障害者の福祉に職務上関係のある者及び使用者は、障害者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、障害者虐待の早期発見に努めなければならない。
3  前項に規定する者は、国及び地方公共団体が講ずる障害者虐待の防止のための啓発活動並びに障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援のための施策に協力するよう努めなければならない。

   第二章 養護者による障害者虐待の防止、養護者に対する支援等

(養護者による障害者虐待に係る通報等)
第七条  養護者による障害者虐待(十八歳未満の障害者について行われるものを除く。以下この章において同じ。)を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2  刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。

第八条  市町村が前条第一項の規定による通報又は次条第一項に規定する届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村の職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。

(通報等を受けた場合の措置)
第九条  市町村は、第七条第一項の規定による通報又は障害者からの養護者による障害者虐待を受けた旨の届出を受けたときは、速やかに、当該障害者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずるとともに、第三十五条の規定により当該市町村と連携協力する者(以下「市町村障害者虐待対応協力者」という。)とその対応について協議を行うものとする。
2  市町村は、第七条第一項の規定による通報又は前項に規定する届出があった場合には、当該通報又は届出に係る障害者に対する養護者による障害者虐待の防止及び当該障害者の保護が図られるよう、養護者による障害者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる障害者を一時的に保護するため迅速に当該市町村の設置する障害者支援施設又は障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第五条第六項の厚生労働省令で定める施設(以下「障害者支援施設等」という。)に入所させる等、適切に、身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)第十八条第一項若しくは第二項又は知的障害者福祉法(昭和三十五年法律第三十七号)第十五条の四若しくは第十六条第一項第二号の規定による措置を講ずるものとする。この場合において、当該障害者が身体障害者福祉法第四条に規定する身体障害者(以下「身体障害者」という。)及び知的障害者福祉法にいう知的障害者(以下「知的障害者」という。)以外の障害者であるときは、当該障害者を身体障害者又は知的障害者とみなして、身体障害者福祉法第十八条第一項若しくは第二項又は知的障害者福祉法第十五条の四若しくは第十六条第一項第二号の規定を適用する。
3  市町村長は、第七条第一項の規定による通報又は第一項に規定する届出があった場合には、当該通報又は届出に係る障害者に対する養護者による障害者虐待の防止並びに当該障害者の保護及び自立の支援が図られるよう、適切に、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第五十一条の十一の二又は知的障害者福祉法第二十八条の規定により審判の請求をするものとする。

(居室の確保)
第十条  市町村は、養護者による障害者虐待を受けた障害者について前条第二項の措置を採るために必要な居室を確保するための措置を講ずるものとする。

(立入調査)
第十一条  市町村長は、養護者による障害者虐待により障害者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは、障害者の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該障害者の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる。
2  前項の規定による立入り及び調査又は質問を行う場合においては、当該職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。
3  第一項の規定による立入り及び調査又は質問を行う権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

(警察署長に対する援助要請等)
第十二条  市町村長は、前条第一項の規定による立入り及び調査又は質問をさせようとする場合において、これらの職務の執行に際し必要があると認めるときは、当該障害者の住所又は居所の所在地を管轄する警察署長に対し援助を求めることができる。
2  市町村長は、障害者の生命又は身体の安全の確保に万全を期する観点から、必要に応じ適切に、前項の規定により警察署長に対し援助を求めなければならない。
3  警察署長は、第一項の規定による援助の求めを受けた場合において、障害者の生命又は身体の安全を確保するため必要と認めるときは、速やかに、所属の警察官に、同項の職務の執行を援助するために必要な警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)その他の法令の定めるところによる措置を講じさせるよう努めなければならない。

(面会の制限)
第十三条  養護者による障害者虐待を受けた障害者について第九条第二項の措置が採られた場合においては、市町村長又は当該措置に係る障害者支援施設等若しくはのぞみの園の長若しくは当該措置に係る身体障害者福祉法第十八条第二項に規定する指定医療機関の管理者は、養護者による障害者虐待の防止及び当該障害者の保護の観点から、当該養護者による障害者虐待を行った養護者について当該障害者との面会を制限することができる。

(養護者の支援)
第十四条  市町村は、第三十二条第二項第二号に規定するもののほか、養護者の負担の軽減のため、養護者に対する相談、指導及び助言その他必要な措置を講ずるものとする。
2  市町村は、前項の措置として、養護者の心身の状態に照らしその養護の負担の軽減を図るため緊急の必要があると認める場合に障害者が短期間養護を受けるために必要となる居室を確保するための措置を講ずるものとする。


   第三章 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の防止等

(障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の防止等のための措置)
第十五条  障害者福祉施設の設置者又は障害福祉サービス事業等を行う者は、障害者福祉施設従事者等の研修の実施、当該障害者福祉施設に入所し、その他当該障害者福祉施設を利用し、又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障害者及びその家族からの苦情の処理の体制の整備その他の障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の防止等のための措置を講ずるものとする。

(障害者福祉施設従事者等による障害者虐待に係る通報等)
第十六条  障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2  障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けた障害者は、その旨を市町村に届け出ることができる。
3  刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。
4  障害者福祉施設従事者等は、第一項の規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。

第十七条  市町村は、前条第一項の規定による通報又は同条第二項の規定による届出を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該通報又は届出に係る障害者福祉施設従事者等による障害者虐待に関する事項を、当該障害者福祉施設従事者等による障害者虐待に係る障害者福祉施設又は当該障害者福祉施設従事者等による障害者虐待に係る障害福祉サービス事業等の事業所の所在地の都道府県に報告しなければならない。

第十八条  市町村が第十六条第一項の規定による通報又は同条第二項の規定による届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村の職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。都道府県が前条の規定による報告を受けた場合における当該報告を受けた都道府県の職員についても、同様とする。

(通報等を受けた場合の措置)
第十九条  市町村が第十六条第一項の規定による通報若しくは同条第二項の規定による届出を受け、又は都道府県が第十七条の規定による報告を受けたときは、市町村長又は都道府県知事は、障害者福祉施設の業務又は障害福祉サービス事業等の適正な運営を確保することにより、当該通報又は届出に係る障害者に対する障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の防止並びに当該障害者の保護及び自立の支援を図るため、社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律その他関係法律の規定による権限を適切に行使するものとする。

(公表)
第二十条  都道府県知事は、毎年度、障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の状況、障害者福祉施設従事者等による障害者虐待があった場合に採った措置その他厚生労働省令で定める事項を公表するものとする。


   第四章 使用者による障害者虐待の防止等

(使用者による障害者虐待の防止等のための措置)
第二十一条  障害者を雇用する事業主は、労働者の研修の実施、当該事業所に使用される障害者及びその家族からの苦情の処理の体制の整備その他の使用者による障害者虐待の防止等のための措置を講ずるものとする。

(使用者による障害者虐待に係る通報等)
第二十二条  使用者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村又は都道府県に通報しなければならない。
2  使用者による障害者虐待を受けた障害者は、その旨を市町村又は都道府県に届け出ることができる。
3  刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。
4  労働者は、第一項の規定による通報又は第二項の規定による届出(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。)をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。

第二十三条  市町村は、前条第一項の規定による通報又は同条第二項の規定による届出を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該通報又は届出に係る使用者による障害者虐待に関する事項を、当該使用者による障害者虐待に係る事業所の所在地の都道府県に通知しなければならない。

第二十四条  都道府県は、第二十二条第一項の規定による通報、同条第二項の規定による届出又は前条の規定による通知を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該通報、届出又は通知に係る使用者による障害者虐待に関する事項を、当該使用者による障害者虐待に係る事業所の所在地を管轄する都道府県労働局に報告しなければならない。

第二十五条  市町村又は都道府県が第二十二条第一項の規定による通報又は同条第二項の規定による届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村又は都道府県の職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。都道府県が第二十三条の規定による通知を受けた場合における当該通知を受けた都道府県の職員及び都道府県労働局が前条の規定による報告を受けた場合における当該報告を受けた都道府県労働局の職員についても、同様とする。

(報告を受けた場合の措置)
第二十六条  都道府県労働局が第二十四条の規定による報告を受けたときは、都道府県労働局長又は労働基準監督署長若しくは公共職業安定所長は、事業所における障害者の適正な労働条件及び雇用管理を確保することにより、当該報告に係る障害者に対する使用者による障害者虐待の防止並びに当該障害者の保護及び自立の支援を図るため、当該報告に係る都道府県との連携を図りつつ、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)その他関係法律の規定による権限を適切に行使するものとする。

(船員に関する特例)
第二十七条  船員法(昭和二十二年法律第百号)の適用を受ける船員である障害者について行われる使用者による障害者虐待に係る前三条の規定の適用については、第二十四条中「厚生労働省令」とあるのは「国土交通省令又は厚生労働省令」と、「当該使用者による障害者虐待に係る事業所の所在地を管轄する都道府県労働局」とあるのは「地方運輸局その他の関係行政機関」と、第二十五条中「都道府県労働局」とあるのは「地方運輸局その他の関係行政機関」と、前条中「都道府県労働局が」とあるのは「地方運輸局その他の関係行政機関が」と、「都道府県労働局長又は労働基準監督署長若しくは公共職業安定所長」とあるのは「地方運輸局その他の関係行政機関の長」と、「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」とあるのは「船員法(昭和二十二年法律第百号)」とする。

(公表)
第二十八条  厚生労働大臣は、毎年度、使用者による障害者虐待の状況、使用者による障害者虐待があった場合に採った措置その他厚生労働省令で定める事項を公表するものとする。


   第五章 就学する障害者等に対する虐待の防止等

(就学する障害者に対する虐待の防止等)
第二十九条  学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校、同法第百二十四条に規定する専修学校又は同法第百三十四条第一項に規定する各種学校をいう。以下同じ。)の長は、教職員、児童、生徒、学生その他の関係者に対する障害及び障害者に関する理解を深めるための研修の実施及び普及啓発、就学する障害者に対する虐待に関する相談に係る体制の整備、就学する障害者に対する虐待に対処するための措置その他の当該学校に就学する障害者に対する虐待を防止するため必要な措置を講ずるものとする。

(保育所等に通う障害者に対する虐待の防止等)
第三十条  保育所等(児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第三十九条第一項に規定する保育所若しくは同法第五十九条第一項に規定する施設のうち同法第三十九条第一項に規定する業務を目的とするもの(少数の乳児又は幼児を対象とするものその他の厚生労働省令で定めるものを除く。)又は就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)第二条第六項に規定する認定こども園をいう。以下同じ。)の長は、保育所等の職員その他の関係者に対する障害及び障害者に関する理解を深めるための研修の実施及び普及啓発、保育所等に通う障害者に対する虐待に関する相談に係る体制の整備、保育所等に通う障害者に対する虐待に対処するための措置その他の当該保育所等に通う障害者に対する虐待を防止するため必要な措置を講ずるものとする。

(医療機関を利用する障害者に対する虐待の防止等)
第三十一条  医療機関(医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第一条の五第一項に規定する病院又は同条第二項に規定する診療所をいう。以下同じ。)の管理者は、医療機関の職員その他の関係者に対する障害及び障害者に関する理解を深めるための研修の実施及び普及啓発、医療機関を利用する障害者に対する虐待に関する相談に係る体制の整備、医療機関を利用する障害者に対する虐待に対処するための措置その他の当該医療機関を利用する障害者に対する虐待を防止するため必要な措置を講ずるものとする。


   第六章 市町村障害者虐待防止センター及び都道府県障害者権利擁護センター

(市町村障害者虐待防止センター)
第三十二条  市町村は、障害者の福祉に関する事務を所掌する部局又は当該市町村が設置する施設において、当該部局又は施設が市町村障害者虐待防止センターとしての機能を果たすようにするものとする。
2  市町村障害者虐待防止センターは、次に掲げる業務を行うものとする。
一  第七条第一項、第十六条第一項若しくは第二十二条第一項の規定による通報又は第九条第一項に規定する届出若しくは第十六条第二項若しくは第二十二条第二項の規定による届出を受理すること。
二  養護者による障害者虐待の防止及び養護者による障害者虐待を受けた障害者の保護のため、障害者及び養護者に対して、相談、指導及び助言を行うこと。
三  障害者虐待の防止及び養護者に対する支援に関する広報その他の啓発活動を行うこと。

(市町村障害者虐待防止センターの業務の委託)
第三十三条  市町村は、市町村障害者虐待対応協力者のうち適当と認められるものに、前条第二項各号に掲げる業務の全部又は一部を委託することができる。
2  前項の規定による委託を受けた者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由なしに、その委託を受けた業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
3  第一項の規定により第七条第一項、第十六条第一項若しくは第二十二条第一項の規定による通報又は第九条第一項に規定する届出若しくは第十六条第二項若しくは第二十二条第二項の規定による届出の受理に関する業務の委託を受けた者が第七条第一項、第十六条第一項若しくは第二十二条第一項の規定による通報又は第九条第一項に規定する届出若しくは第十六条第二項若しくは第二十二条第二項の規定による届出を受けた場合には、当該通報若しくは届出を受けた者又はその役員若しくは職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。

(市町村等における専門的に従事する職員の確保)
第三十四条  市町村及び前条第一項の規定による委託を受けた者は、障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援並びに養護者に対する支援を適切に実施するために、障害者の福祉又は権利の擁護に関し専門的知識又は経験を有し、かつ、これらの事務に専門的に従事する職員を確保するよう努めなければならない。

(市町村における連携協力体制の整備)
第三十五条  市町村は、養護者による障害者虐待の防止、養護者による障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援並びに養護者に対する支援を適切に実施するため、社会福祉法に定める福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という。)その他関係機関、民間団体等との連携協力体制を整備しなければならない。この場合において、養護者による障害者虐待にいつでも迅速に対応することができるよう、特に配慮しなければならない。

(都道府県障害者権利擁護センター)
第三十六条  都道府県は、障害者の福祉に関する事務を所掌する部局又は当該都道府県が設置する施設において、当該部局又は施設が都道府県障害者権利擁護センターとしての機能を果たすようにするものとする。
2  都道府県障害者権利擁護センターは、次に掲げる業務を行うものとする。
一  第二十二条第一項の規定による通報又は同条第二項の規定による届出を受理すること。
二  この法律の規定により市町村が行う措置の実施に関し、市町村相互間の連絡調整、市町村に対する情報の提供、助言その他必要な援助を行うこと。
三  障害者虐待を受けた障害者に関する各般の問題及び養護者に対する支援に関し、相談に応ずること又は相談を行う機関を紹介すること。
四  障害者虐待を受けた障害者の支援及び養護者に対する支援のため、情報の提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助を行うこと。
五  障害者虐待の防止及び養護者に対する支援に関する情報を収集し、分析し、及び提供すること。
六  障害者虐待の防止及び養護者に対する支援に関する広報その他の啓発活動を行うこと。
七  その他障害者に対する虐待の防止等のために必要な支援を行うこと。

(都道府県障害者権利擁護センターの業務の委託)
第三十七条  都道府県は、第三十九条の規定により当該都道府県と連携協力する者(以下「都道府県障害者虐待対応協力者」という。)のうち適当と認められるものに、前条第二項第一号又は第三号から第七号までに掲げる業務の全部又は一部を委託することができる。
2  前項の規定による委託を受けた者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由なしに、その委託を受けた業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
3  第一項の規定により第二十二条第一項の規定による通報又は同条第二項に規定する届出の受理に関する業務の委託を受けた者が同条第一項の規定による通報又は同条第二項に規定する届出を受けた場合には、当該通報若しくは届出を受けた者又はその役員若しくは職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。

(都道府県等における専門的に従事する職員の確保)
第三十八条  都道府県及び前条第一項の規定による委託を受けた者は、障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援並びに養護者に対する支援を適切に実施するために、障害者の福祉又は権利の擁護に関し専門的知識又は経験を有し、かつ、これらの事務に専門的に従事する職員を確保するよう努めなければならない。

(都道府県における連携協力体制の整備)
第三十九条  都道府県は、障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援並びに養護者に対する支援を適切に実施するため、福祉事務所その他関係機関、民間団体等との連携協力体制を整備しなければならない。


   第七章 雑則

(周知)
第四十条  市町村又は都道府県は、市町村障害者虐待防止センター又は都道府県障害者権利擁護センターとしての機能を果たす部局又は施設及び市町村障害者虐待対応協力者又は都道府県障害者虐待対応協力者の名称を明示すること等により、当該部局又は施設及び市町村障害者虐待対応協力者又は都道府県障害者虐待対応協力者を周知させなければならない。

(障害者虐待を受けた障害者の自立の支援)
第四十一条  国及び地方公共団体は、障害者虐待を受けた障害者が地域において自立した生活を円滑に営むことができるよう、居住の場所の確保、就業の支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

(調査研究)
第四十二条  国及び地方公共団体は、障害者虐待を受けた障害者がその心身に著しく重大な被害を受けた事例の分析を行うとともに、障害者虐待の予防及び早期発見のための方策、障害者虐待があった場合の適切な対応方法、養護者に対する支援の在り方その他障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援並びに養護者に対する支援のために必要な事項についての調査及び研究を行うものとする。

(財産上の不当取引による被害の防止等)
第四十三条  市町村は、養護者、障害者の親族、障害者福祉施設従事者等及び使用者以外の者が不当に財産上の利益を得る目的で障害者と行う取引(以下「財産上の不当取引」という。)による障害者の被害について、相談に応じ、若しくは消費生活に関する業務を担当する部局その他の関係機関を紹介し、又は市町村障害者虐待対応協力者に、財産上の不当取引による障害者の被害に係る相談若しくは関係機関の紹介の実施を委託するものとする。
2  市町村長は、財産上の不当取引の被害を受け、又は受けるおそれのある障害者について、適切に、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第五十一条の十一の二又は知的障害者福祉法第二十八条の規定により審判の請求をするものとする。

(成年後見制度の利用促進)
第四十四条  国及び地方公共団体は、障害者虐待の防止並びに障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援並びに財産上の不当取引による障害者の被害の防止及び救済を図るため、成年後見制度の周知のための措置、成年後見制度の利用に係る経済的負担の軽減のための措置等を講ずることにより、成年後見制度が広く利用されるようにしなければならない。


   第八章 罰則

第四十五条  第三十三条第二項又は第三十七条第二項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

第四十六条  正当な理由がなく、第十一条第一項の規定による立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは障害者に答弁をさせず、若しくは虚偽の答弁をさせた者は、三十万円以下の罰金に処する。

  附 則 抄

(施行期日)
第一条  この法律は、平成二十四年十月一日から施行する。

(検討)
第二条  政府は、学校、保育所等、医療機関、官公署等における障害者に対する虐待の防止等の体制の在り方並びに障害者の安全の確認又は安全の確保を実効的に行うための方策、障害者を訪問して相談等を行う体制の充実強化その他の障害者虐待の防止、障害者虐待を受けた障害者の保護及び自立の支援、養護者に対する支援等のための制度について、この法律の施行後三年を目途として、児童虐待、高齢者虐待、配偶者からの暴力等の防止等に関する法制度全般の見直しの状況を踏まえ、この法律の施行状況等を勘案して検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

(以下略)

|

2012年9月 7日 (金)

点字判決、障害者の権利に関する条約

判決の点訳についての下記報道がありました(記事によると、裁判中の準備書面なども、相手方により点訳されていたようです)。
このような扱いが、代理人をつけた訴訟でも、「公費で」なされるようになってほしいと思います(そのためには、通訳者の養成も課題になるでしょう)。

<全盲女性訴訟>名古屋地裁が点字判決 原告の請求は棄却

(以下毎日新聞9月7日より引用)
http://mainichi.jp/select/news/20120907k0000e040177000c.html

認定された障害程度区分が軽すぎるとして全盲女性が名古屋市を相手取り、障害区分の変更を求めた訴訟で、名古屋地裁の福井章代裁判長は7日、女性の点字判決文要請に応じ、判決要旨を点字で出した。地裁は女性に対し、判決全文も点字にして後日送達すると伝えた。最高裁によると点字判決文は全国2例目。名古屋地裁は、障害者が法的手続きを効果的に利用できる「司法アクセス権」に配慮したとみられる。女性の請求自体は棄却された。
最高裁によると、初めての点字判決文は昨年の民事訴訟。ただ、最高裁はどの裁判所かや訴訟の内容などについて一切明らかにしていない。
(中略)
梅尾さんはあえて代理人をつけず、自ら点字で訴状を作った。過去に別の訴訟を起こした際、代理人がいたことから裁判所が障害に配慮してくれなかったためという。そして、他の障害者のためにも地裁や被告の名古屋市に配慮を求めた。
地裁は点字訴状の受理の可否を検討し、提出から7日後に受理。市に準備書面など裁判書類の点訳を求めるなど配慮した。判決についても点訳ソフトを使ったという。
(以下略)

ところで、障害者の権利に関する条約、というものがあります。

(以下、同日の毎日新聞からの引用)
http://mainichi.jp/select/news/20120907k0000e040225000c.html
名古屋地裁が7日、民事訴訟を起こした全盲女性の求めに応じて点字で判決要旨を出したことは、国際的に機運が高まっている障害者の権利改善の流れに沿ったものだ。ただ、民事訴訟で2例目でしかない。全盲の竹下義樹弁護士(京都弁護士会所属)によると、刑事裁判では、名古屋高裁が84年、全盲で難聴の被告に理解させるため、主文だけを点字で出したことがあるが、正式な判決文としてではなく、便宜的なものだったという。
06年に採択された国連の障害者権利条約は21条で「点字や手話などが簡単に使えるようにする」ことを、また13条では「障害者がすべての法的手続きを効果的に利用できる」(司法アクセス権)ことを、各国に求めている。日本は同条約を批准していないが、それでも徐々に権利を認める動きが広がっている。
(以上引用終わり)

以下、条約文を貼り付け、ご紹介します。
たとえばパラリンピックの報道も、この文脈の中で見てみると、見えるものが変わってくるのではないかと思います。

※障害者の権利に関する条約

(外務省HP仮訳)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/shomei_32b.html

前文

 この条約の締約国は、

(a) 国際連合憲章において宣明された原則が、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び価値並びに平等のかつ奪い得ない権利が世界における自由、正義及び平和の基礎を成すものであると認めていることを想起し、
(b) 国際連合が、世界人権宣言及び人権に関する国際規約において、すべての人はいかなる差別もなしに同宣言及びこれらの規約に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明し、及び合意したことを認め、
(c) すべての人権及び基本的自由が普遍的であり、不可分のものであり、相互に依存し、かつ、相互に関連を有すること並びに障害者がすべての人権及び基本的自由を差別なしに完全に享有することを保障することが必要であることを再確認し、
(d) 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約、児童の権利に関する条約及びすべての移住労働者及びその家族の構成員の権利の保護に関する国際条約を想起し、
(e) 障害が、発展する概念であり、並びに障害者と障害者に対する態度及び環境による障壁との間の相互作用であって、障害者が他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものによって生ずることを認め、
(f) 障害者に関する世界行動計画及び障害者の機会均等化に関する標準規則に定める原則及び政策上の指針が、障害者の機会均等を更に促進するための国内的、地域的及び国際的な政策、計画及び行動の促進、作成及び評価に影響を及ぼす上で重要であることを認め、
(g) 持続可能な開発の関連戦略の不可分の一部として障害に関する問題を主流に組み入れることが重要であることを強調し、
(h) また、いかなる者に対する障害を理由とする差別も、人間の固有の尊厳及び価値を侵害するものであることを認め、
(i) さらに、障害者の多様性を認め、
(j) すべての障害者(より多くの支援を必要とする障害者を含む。)の人権を促進し、及び保護することが必要であることを認め、
(k) これらの種々の文書及び約束にもかかわらず、障害者が、世界のすべての地域において、社会の平等な構成員としての参加を妨げる障壁及び人権侵害に依然として直面していることを憂慮し、
(l) あらゆる国(特に開発途上国)における障害者の生活条件を改善するための国際協力が重要であることを認め、
(m) 障害者が地域社会における全般的な福祉及び多様性に対して既に又は潜在的に貢献していることを認め、また、障害者による人権及び基本的自由の完全な享有並びに完全な参加を促進することにより、その帰属意識が高められること並びに社会の人的、社会的及び経済的開発並びに貧困の撲滅に大きな前進がもたらされることを認め、
(n) 障害者にとって、個人の自律(自ら選択する自由を含む。)及び自立が重要であることを認め、
(o) 障害者が、政策及び計画(障害者に直接関連する政策及び計画を含む。)に係る意思決定の過程に積極的に関与する機会を有すべきであることを考慮し、
(p) 人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的な、種族的な、原住民としての若しくは社会的な出身、財産、出生、年齢又は他の地位に基づく複合的又は加重的な形態の差別を受けている障害者が直面する困難な状況を憂慮し、
(q) 障害のある女子が、家庭の内外で暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取を受ける一層大きな危険にしばしばさらされていることを認め、
(r) 障害のある児童が、他の児童と平等にすべての人権及び基本的自由を完全に享有すべきであることを認め、また、このため、児童の権利に関する条約の締約国が負う義務を想起し、
(s) 障害者による人権及び基本的自由の完全な享有を促進するためのあらゆる努力に性別の視点を組み込む必要があることを強調し、
(t) 障害者の大多数が貧困の状況下で生活している事実を強調し、また、この点に関し、貧困が障害者に及ぼす悪影響に対処することが真に必要であることを認め、
(u) 国際連合憲章に定める目的及び原則の十分な尊重並びに人権に関する適用可能な文書の遵守に基づく平和で安全な状況が、特に武力紛争及び外国による占領の期間中における障害者の十分な保護に不可欠であることに留意し、
(v) 障害者がすべての人権及び基本的自由を完全に享有することを可能とするに当たっては、物理的、社会的、経済的及び文化的な環境、健康及び教育並びに情報及び通信についての機会が提供されることが重要であることを認め、
(w) 個人が、他人に対し及びその属する地域社会に対して義務を負うこと並びに人権に関する国際的な文書において認められる権利の増進及び擁護のために努力する責任を有することを認識し、
(x) 家族が、社会の自然かつ基礎的な単位であること並びに社会及び国家による保護を受ける権利を有することを確信し、また、障害者及びその家族の構成員が、障害者の権利の完全かつ平等な享有に向けて家族が貢献することを可能とするために必要な保護及び支援を受けるべきであることを確信し、
(y) 障害者の権利及び尊厳を促進し、及び保護するための包括的かつ総合的な国際条約が、開発途上国及び先進国において、障害者の社会的に著しく不利な立場を是正することに重要な貢献を行うこと並びに障害者が市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的分野に均等な機会により参加することを促進することを確信して、

 次のとおり協定した。

第一条 目的

 この条約は、すべての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。
 障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な障害を有する者であって、様々な障壁との相互作用により他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げられることのあるものを含む。

第二条 定義

 この条約の適用上、
 「意思疎通」とは、言語、文字表記、点字、触覚を使った意思疎通、拡大文字、利用可能なマルチメディア並びに筆記、聴覚、平易な言葉及び朗読者による意思疎通の形態、手段及び様式並びに補助的及び代替的な意思疎通の形態、手段及び様式(利用可能な情報通信技術を含む。)をいう。
 「言語」とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう。
 「障害を理由とする差別」とは、障害を理由とするあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害を理由とする差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。
 「合理的配慮」とは、障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。
 「ユニバーサルデザイン」とは、調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲ですべての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計をいう。ユニバーサルデザインは、特定の障害者の集団のための支援装置が必要な場合には、これを排除するものではない。

第三条 一般原則

 この条約の原則は、次のとおりとする。
(a) 固有の尊厳、個人の自律(自ら選択する自由を含む。)及び個人の自立を尊重すること。
(b) 差別されないこと。
(c) 社会に完全かつ効果的に参加し、及び社会に受け入れられること。
(d) 人間の多様性及び人間性の一部として、障害者の差異を尊重し、及び障害者を受け入れること。
(e) 機会の均等
(f) 施設及びサービスの利用を可能にすること。
(g) 男女の平等
(h) 障害のある児童の発達しつつある能力を尊重し、及び障害のある児童がその同一性を保持する権利を尊重すること。

第四条 一般的義務

1 締約国は、障害を理由とするいかなる差別もなしに、すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進することを約束する。このため、締約国は、次のことを約束する。
(a) この条約において認められる権利の実現のため、すべての適当な立法措置、行政措置その他の措置をとること。
(b) 障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとること。
(c) すべての政策及び計画において障害者の人権の保護及び促進を考慮に入れること。
(d) この条約と両立しないいかなる行為又は慣行も差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの条約に従って行動することを確保すること。
(e) 個人、団体又は民間企業による障害を理由とする差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとること。
(f) 障害者による利用可能性及び使用を促進し、並びに基準及び指針の整備に当たりユニバーサルデザインを促進するため、第二条に定めるすべての人が使用することのできる製品、サービス、設備及び施設であって、障害者に特有のニーズを満たすために可能な限り最低限の調整及び最小限の費用を要するものについての研究及び開発を約束し、又は促進すること。
(g) 障害者に適した新たな技術(情報通信技術、移動補助具、装置及び支援技術を含む。)であって、妥当な費用であることを優先させたものについての研究及び開発を約束し、又は促進し、並びにその新たな技術の利用可能性及び使用を促進すること。
(h) 移動補助具、装置及び支援技術(新たな技術を含む。)並びに他の形態の援助、支援サービス及び施設に関する情報であって、障害者にとって利用可能なものを提供すること。
(i) この条約において認められる権利によって保障される支援及びサービスをより良く提供するため、障害者と共に行動する専門家及び職員に対する研修を促進すること。
2 締約国は、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、これらの権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、また、必要な場合には国際協力の枠内で、措置をとることを約束する。ただし、この条約に定める義務であって、国際法に従って直ちに適用可能なものに影響を及ぼすものではない。
3 締約国は、この条約を実施するための法令及び政策の作成及び実施に当たり、並びにその他の障害者に関する問題についての意思決定過程において、障害者(障害のある児童を含む。)を代表する団体を通じ、障害者と緊密に協議し、及び障害者を積極的に関与させる。
4 この条約のいかなる規定も、締約国の法律又は締約国について効力を有する国際法に含まれる規定であって障害者の権利の実現に一層貢献するものに影響を及ぼすものではない。この条約のいずれかの締約国において法律、条約、規則又は慣習によって認められ、又は存する人権及び基本的自由については、この条約がそれらの権利若しくは自由を認めていないこと又はその認める範囲がより狭いことを理由として、それらの権利及び自由を制限し、又は侵してはならない。
5 この条約は、いかなる制限又は例外もなしに、連邦国家のすべての地域について適用する。

第五条 平等及び差別されないこと

1 締約国は、すべての者が、法律の前に又は法律に基づいて平等であり、並びにいかなる差別もなしに法律による平等の保護及び利益を受ける権利を有することを認める。
2 締約国は、障害を理由とするあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な法的保護を障害者に保障する。
3 締約国は、平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。
4 障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、この条約に規定する差別と解してはならない。

第六条 障害のある女子

1 締約国は、障害のある女子が複合的な差別を受けていることを認識し、及びこの点に関し、障害のある女子がすべての人権及び基本的自由を完全かつ平等に享有することを確保するための措置をとる。
2 締約国は、女子に対してこの条約に定める人権及び基本的自由を行使し、及び享有することを保障することを目的として、女子の完全な能力開発、向上及び自律的な意思決定力を確保するためのすべての適当な措置をとる。

第七条 障害のある児童

1 締約国は、障害のある児童が他の児童と平等にすべての人権及び基本的自由を完全に享有することを確保するためのすべての必要な措置をとる。
2 障害のある児童に関するすべての措置をとるに当たっては、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。
3 締約国は、障害のある児童が、自己に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利並びにこの権利を実現するための障害及び年齢に適した支援を提供される権利を有することを確保する。この場合において、障害のある児童の意見は、他の児童と平等に、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。

第八条 意識の向上

1 締約国は、次のことのための即時の、効果的なかつ適当な措置をとることを約束する。
(a) 障害者に関する社会全体(家族を含む。)の意識を向上させ、並びに障害者の権利及び尊厳に対する尊重を育成すること。
(b) あらゆる活動分野における障害者に関する定型化された観念、偏見及び有害な慣行(性及び年齢を理由とするものを含む。)と戦うこと。
(c) 障害者の能力及び貢献に関する意識を向上させること。

2 このため、1の措置には、次のことを含む。
(a) 次のことのための効果的な公衆の意識の啓発活動を開始し、及び維持すること。
  (i) 障害者の権利に対する理解を育てること。
  (ii) 障害者に対する肯定的認識及び一層の社会の啓発を促進すること。
  (iii) 障害者の技術、価値及び能力並びに職場及び労働市場に対する障害者の貢献についての認識を促進すること。
(b) 教育制度のすべての段階(幼年期からのすべての児童に対する教育制度を含む。)において、障害者の権利を尊重する態度を育成すること。
(c) すべてのメディア機関が、この条約の目的に適合するように障害者を描写するよう奨励すること。
(d) 障害者及びその権利に関する啓発のための研修計画を促進すること。

第九条 施設及びサービスの利用可能性

1 締約国は、障害者が自立して生活し、及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすることを目的として、障害者が、他の者と平等に、都市及び農村の双方において、自然環境、輸送機関、情報通信(情報通信技術及び情報通信システムを含む。)並びに公衆に開放され、又は提供される他の施設及びサービスを利用することができることを確保するための適当な措置をとる。この措置は、施設及びサービスの利用可能性における障害及び障壁を特定し、及び撤廃することを含むものとし、特に次の事項について適用する。

(a) 建物、道路、輸送機関その他の屋内及び屋外の施設(学校、住居、医療施設及び職場を含む。)
(b) 情報、通信その他のサービス(電子サービス及び緊急事態に係るサービスを含む。)

2 締約国は、また、次のことのための適当な措置をとる。
(a) 公衆に開放され、又は提供される施設及びサービスの利用可能性に関する最低基準及び指針の実施を発展させ、公表し、及び監視すること。
(b) 公衆に開放され、又は提供される施設及びサービスを提供する民間の団体が、障害者にとっての施設及びサービスの利用可能性のあらゆる側面を考慮することを確保すること。
(c) 障害者が直面している施設及びサービスの利用可能性に係る問題についての研修を関係者に提供すること。
(d) 公衆に開放された建物その他の施設において、点字の標識及び読みやすく、かつ、理解しやすい形式の標識を提供すること。
(e) 公衆に開放された建物その他の施設の利用可能性を容易にするための生活支援及び仲介する者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳を含む。)を提供すること。
(f) 障害者による情報の利用を確保するため、障害者に対する他の適当な形態の援助及び支援を促進すること。
(g) 障害者による新たな情報通信技術及び情報通信システム(インターネットを含む。)の利用を促進すること。
(h) 情報通信技術及び情報通信システムを最小限の費用で利用可能とするため、早い段階で、利用可能な情報通信技術及び情報通信システムの設計、開発、生産及び分配を促進すること。

第十条 生命に対する権利

 締約国は、すべての人間が生命に対する固有の権利を有することを再確認するものとし、障害者が他の者と平等にその権利を効果的に享有することを確保するためのすべての必要な措置をとる。

第十一条 危険な状況及び人道上の緊急事態

 締約国は、国際法(国際人道法及び国際人権法を含む。)に基づく自国の義務に従い、危険な状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。)において障害者の保護及び安全を確保するためのすべての必要な措置をとる。

第十二条 法律の前にひとしく認められる権利

1 締約国は、障害者がすべての場所において法律の前に人として認められる権利を有することを再確認する。
2 締約国は、障害者が生活のあらゆる側面において他の者と平等に法的能力を享有することを認める。
3 締約国は、障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用することができるようにするための適当な措置をとる。
4 締約国は、法的能力の行使に関連するすべての措置において、濫用を防止するための適当かつ効果的な保護を国際人権法に従って定めることを確保する。当該保護は、法的能力の行使に関連する措置が、障害者の権利、意思及び選好を尊重すること、利益相反を生じさせず、及び不当な影響を及ぼさないこと、障害者の状況に応じ、かつ、適合すること、可能な限り短い期間に適用すること並びに権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関による定期的な審査の対象とすることを確保するものとする。当該保護は、当該措置が障害者の権利及び利益に及ぼす影響の程度に応じたものとする。
5 締約国は、この条の規定に従うことを条件として、障害者が財産を所有し、又は相続し、自己の会計を管理し、及び銀行貸付け、抵当その他の形態の金融上の信用について均等な機会を有することについての平等の権利を確保するためのすべての適当かつ効果的な措置をとるものとし、障害者がその財産を恣意的に奪われないことを確保する。

第十三条 司法手続の利用

1 締約国は、障害者がすべての法的手続(捜査段階その他予備的な段階を含む。)において直接及び間接の参加者(証人を含む。)として効果的な役割を果たすことを容易にするため、手続上の配慮及び年齢に適した配慮が提供されること等により、障害者が他の者と平等に司法手続を効果的に利用することを確保する。
2 締約国は、障害者が司法手続を効果的に利用することに役立てるため、司法に係る分野に携わる者(警察官及び刑務官を含む。)に対する適当な研修を促進する。

第十四条 身体の自由及び安全

1 締約国は、障害者に対し、他の者と平等に次のことを確保する。
(a) 身体の自由及び安全についての権利を享有すること。
(b) 不法に又は恣意的に自由を奪われないこと、いかなる自由のはく奪も法律に従って行われること及びいかなる場合においても自由のはく奪が障害の存在によって正当化されないこと。

2 締約国は、障害者がいずれの手続を通じて自由を奪われた場合であっても、当該障害者が、他の者と平等に国際人権法による保障を受ける権利を有すること並びにこの条約の目的及び原則に従って取り扱われること(合理的配慮の提供によるものを含む。)を確保する。

第十五条 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由

1 いかなる者も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。特に、いかなる者も、その自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けない。
2 締約国は、障害者が拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けることを防止するため、他の者との平等を基礎として、すべての効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。

第十六条 搾取、暴力及び虐待からの自由

1 締約国は、家庭の内外におけるあらゆる形態の搾取、暴力及び虐待(性別を理由とするものを含む。)から障害者を保護するためのすべての適当な立法上、行政上、社会上、教育上その他の措置をとる。
2 また、締約国は、特に、障害者及びその家族並びに介護者に対する適当な形態の性別及び年齢に配慮した援助及び支援(搾取、暴力及び虐待の事案を防止し、認識し、及び報告する方法に関する情報及び教育を提供することによるものを含む。)を確保することにより、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待を防止するためのすべての適当な措置をとる。締約国は、保護事業が年齢、性別及び障害に配慮したものであることを確保する。
3 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待の発生を防止するため、障害者に役立つことを意図したすべての施設及び計画が独立した当局により効果的に監視されることを確保する。
4 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力又は虐待の被害者となる障害者の身体的、認知的及び心理的な回復及びリハビリテーション並びに社会復帰を促進するためのすべての適当な措置(保護事業の提供によるものを含む。)をとる。このような回復及び復帰は、障害者の健康、福祉、自尊心、尊厳及び自律を育成する環境において行われるものとし、性別及び年齢に応じたニーズを考慮に入れる。
5 締約国は、障害者に対する搾取、暴力及び虐待の事案が特定され、捜査され、及び適当な場合には訴追されることを確保するための効果的な法令及び政策(女子及び児童に重点を置いた法令及び政策を含む。)を実施する。

第十七条 個人が健全であることの保護

 すべての障害者は、他の者と平等に、その心身が健全であることを尊重される権利を有する。

第十八条 移動の自由及び国籍についての権利

1 締約国は、障害者に対して次のことを確保すること等により、障害者が他の者と平等に移動の自由、居住の自由及び国籍についての権利を有することを認める。
(a) 国籍を取得し、及び変更する権利を有すること並びにその国籍を恣意的に又は障害を理由として奪われないこと。
(b) 国籍に係る文書若しくは身元に係る他の文書を入手し、所有し、及び利用すること又は移動の自由についての権利の行使を容易にするために必要とされる関連手続(例えば、出入国の手続)を利用することを、障害を理由として奪われないこと。
(c) いずれの国(自国を含む。)からも自由に離れることができること。
(d) 自国に戻る権利を恣意的に又は障害を理由として奪われないこと。

2 障害のある児童は、出生の後直ちに登録される。障害のある児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその父母を知り、かつ、その父母によって養育される権利を有する。

第十九条 自立した生活及び地域社会に受け入れられること

 この条約の締約国は、すべての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に受け入れられ、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。この措置には、次のことを確保することによるものを含む。

(a) 障害者が、他の者と平等に、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の居住施設で生活する義務を負わないこと。
(b) 地域社会における生活及び地域社会への受入れを支援し、並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(人的支援を含む。)を障害者が利用することができること。
(c) 一般住民向けの地域社会サービス及び施設が、障害者にとって他の者と平等に利用可能であり、かつ、障害者のニーズに対応していること。

第二十条 個人的な移動を容易にすること

 締約国は、障害者ができる限り自立して移動することを容易にすることを確保するための効果的な措置をとる。この措置には、次のことによるものを含む。
(a) 障害者が、自ら選択する方法で、自ら選択する時に、かつ、妥当な費用で個人的に移動することを容易にすること。
(b) 障害者が質の高い移動補助具、装置、支援技術、生活支援及び仲介する者を利用することを容易にすること(これらを妥当な費用で利用可能なものとすることを含む。)。
(c) 障害者及び障害者と共に行動する専門職員に対し、移動技術に関する研修を提供すること。
(d) 移動補助具、装置及び支援技術を生産する事業体に対し、障害者の移動のあらゆる側面を考慮するよう奨励すること。

第二十一条 表現及び意見の自由並びに情報の利用

 締約国は、障害者が、第二条に定めるあらゆる形態の意思疎通であって自ら選択するものにより、表現及び意見の自由(他の者と平等に情報及び考えを求め、受け、及び伝える自由を含む。)についての権利を行使することができることを確保するためのすべての適当な措置をとる。この措置には、次のことによるものを含む。
(a) 障害者に対し、様々な種類の障害に相応した利用可能な様式及び技術により、適時に、かつ、追加の費用を伴わず、一般公衆向けの情報を提供すること。
(b) 公的な活動において、手話、点字、補助的及び代替的な意思疎通並びに障害者が自ら選択する他のすべての利用可能な意思疎通の手段、形態及び様式を用いることを受け入れ、及び容易にすること。
(c) 一般公衆に対してサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間の団体が情報及びサービスを障害者にとって利用可能又は使用可能な様式で提供するよう要請すること。
(d) マスメディア(インターネットを通じて情報を提供する者を含む。)がそのサービスを障害者にとって利用可能なものとするよう奨励すること。
(e) 手話の使用を認め、及び促進すること。

第二十二条 プライバシーの尊重

1 いかなる障害者も、居住地又は居住施設のいかんを問わず、そのプライバシー、家族、住居又は通信その他の形態の意思疎通に対して恣意的に又は不法に干渉されず、また、名誉及び信用を不法に攻撃されない。障害者は、このような干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。
2 締約国は、他の者と平等に、障害者の個人、健康及びリハビリテーションに関する情報に係るプライバシーを保護する。

第二十三条 家庭及び家族の尊重

1 締約国は、他の者と平等に、婚姻、家族及び親子関係に係るすべての事項に関し、障害者に対する差別を撤廃するための効果的かつ適当な措置をとる。この措置は、次のことを確保することを目的とする。
(a) 婚姻をすることができる年齢のすべての障害者が、両当事者の自由かつ完全な合意に基づいて婚姻をし、かつ、家族を形成する権利を認めること。
(b) 障害者が子の数及び出産の間隔を自由にかつ責任をもって決定する権利並びに障害者が年齢に適した情報、生殖及び家族計画に係る教育を享受する権利を認め、並びに障害者がこれらの権利を行使することを可能とするために必要な手段を提供されること。
(c) 障害者(児童を含む。)が、他の者と平等に生殖能力を保持すること。

2 締約国は、子の後見、養子縁組又はこれらに類する制度が国内法令に存在する場合には、それらの制度に係る障害者の権利及び責任を確保する。あらゆる場合において、子の最善の利益は至上である。締約国は、障害者が子の養育についての責任を遂行するに当たり、当該障害者に対して適当な援助を与える。

3 締約国は、障害のある児童が家庭生活について平等の権利を有することを確保する。締約国は、この権利を実現し、並びに障害のある児童の隠匿、遺棄、放置及び隔離を防止するため、障害のある児童及びその家族に対し、包括的な情報、サービス及び支援を早期に提供することを約束する。

4 締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。いかなる場合にも、児童は、自己が障害を有すること又は父母の一方若しくは双方が障害を有することを理由として父母から分離されない。

5 締約国は、近親の家族が障害のある児童を監護することができない場合には、一層広い範囲の家族の中で代替的な監護を提供し、及びこれが不可能なときは、地域社会の中で家庭的な環境により代替的な監護を提供するようあらゆる努力を払うことを約束する。

第二十四条 教育

1 締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、次のことを目的とするあらゆる段階における障害者を包容する教育制度及び生涯学習を確保する。
(a) 人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。
(b) 障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。
(c) 障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。

2 締約国は、1の権利の実現に当たり、次のことを確保する。
(a) 障害者が障害を理由として教育制度一般から排除されないこと及び障害のある児童が障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと。
(b) 障害者が、他の者と平等に、自己の生活する地域社会において、包容され、質が高く、かつ、無償の初等教育の機会及び中等教育の機会を与えられること。
(c) 個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。
(d) 障害者が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を教育制度一般の下で受けること。
(e) 学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられることを確保すること。

3 締約国は、障害者が地域社会の構成員として教育に完全かつ平等に参加することを容易にするため、障害者が生活する上での技能及び社会的な発達のための技能を習得することを可能とする。このため、締約国は、次のことを含む適当な措置をとる。
(a) 点字、代替的な文字、意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式並びに適応及び移動のための技能の習得並びに障害者相互による支援及び助言を容易にすること。
(b) 手話の習得及び聴覚障害者の社会の言語的な同一性の促進を容易にすること。
(c) 視覚障害若しくは聴覚障害又はこれらの重複障害のある者(特に児童)の教育が、その個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段で、かつ、学問的及び社会的な発達を最大にする環境において行われることを確保すること。

4 締約国は、1の権利の実現の確保を助長することを目的として、手話又は点字について能力を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用し、並びに教育のすべての段階に従事する専門家及び職員に対する研修を行うための適当な措置をとる。この研修には、障害についての意識の向上を組み入れ、また、適当な意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式の使用並びに障害者を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れるものとする。

5 締約国は、障害者が、差別なしに、かつ、他の者と平等に高等教育一般、職業訓練、成人教育及び生涯学習の機会を与えられることを確保する。このため、締約国は、合理的配慮が障害者に提供されることを確保する。

第二十五条 健康

 締約国は、障害者が障害を理由とする差別なしに到達可能な最高水準の健康を享受する権利を有することを認める。締約国は、障害者が性別に配慮した保健サービス(保健に関連するリハビリテーションを含む。)を利用することができることを確保するためのすべての適当な措置をとる。締約国は、特に、次のことを行う。
(a) 障害者に対して他の者に提供されるものと同一の範囲、質及び水準の無償の又は妥当な保健及び保健計画(性及び生殖に係る健康並びに住民のための公衆衛生計画の分野を含む。)を提供すること。
(b) 障害者が特にその障害のために必要とする保健サービス(適当な場合には、早期発見及び早期関与を含む。)並びに特に児童及び高齢者の間で障害の悪化を最小限にし、及び防止するためのサービスを提供すること。
(c) これらの保健サービスを、障害者自身が属する地域社会(農村を含む。)の可能な限り近くにおいて提供すること。
(d) 保健に従事する者に対し、特に、研修を通じて及び公私の保健に関する倫理基準を定めることによって障害者の人権、尊厳、自立及びニーズに関する意識を高めることにより、他の者と同一の質の医療(例えば、情報に基づく自由な同意を基礎とした医療)を障害者に提供するよう要請すること。
(e) 健康保険及び国内法により認められている場合には生命保険の提供に当たり、公正かつ妥当な方法で行い、及び障害者に対する差別を禁止すること。
(f) 保健若しくは保健サービス又は食糧及び飲料の提供に関し、障害を理由とする差別的な拒否を防止すること。

第二十六条 リハビリテーション

1 締約国は、障害者が、最大限の自立並びに十分な身体的、精神的、社会的及び職業的な能力を達成し、及び維持し、並びに生活のあらゆる側面に完全に受け入れられ、及び参加することを達成し、及び維持することを可能とするための効果的かつ適当な措置(障害者相互による支援を通じたものを含む。)をとる。このため、締約国は、特に、保健、雇用、教育及び社会に係るサービスの分野において、包括的なリハビリテーションのサービス及びプログラムを企画し、強化し、及び拡張する。この場合において、これらのサービス及びプログラムは、次のようなものとする。

(a) 可能な限り初期の段階において開始し、並びに個人のニーズ及び長所に関する総合的な評価を基礎とすること。
(b) 地域社会及び社会のあらゆる側面への参加及び受入れを支援し、自発的なものとし、並びに障害者自身が属する地域社会(農村を含む。)の可能な限り近くにおいて利用可能なものとすること。

2 締約国は、リハビリテーションのサービスに従事する専門家及び職員に対する初期研修及び継続的な研修の充実を促進する。

3 締約国は、障害者のために設計された支援装置及び支援技術であって、リハビリテーションに関連するものの利用可能性、知識及び使用を促進する。

第二十七条 労働及び雇用

1 締約国は、障害者が他の者と平等に労働についての権利を有することを認める。この権利には、障害者に対して開放され、障害者を受け入れ、及び障害者にとって利用可能な労働市場及び労働環境において、障害者が自由に選択し、又は承諾する労働によって生計を立てる機会を有する権利を含む。締約国は、特に次のことのための適当な措置(立法によるものを含む。)をとることにより、労働についての障害者(雇用の過程で障害を有することとなった者を含む。)の権利が実現されることを保障し、及び促進する。

(a) あらゆる形態の雇用に係るすべての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続、昇進並びに安全かつ健康的な作業条件を含む。)に関し、障害を理由とする差別を禁止すること。
(b) 他の者と平等に、公正かつ良好な労働条件(例えば、均等な機会及び同一価値の労働についての同一報酬)、安全かつ健康的な作業条件(例えば、嫌がらせからの保護)及び苦情に対する救済についての障害者の権利を保護すること。
(c) 障害者が他の者と平等に労働組合についての権利を行使することができることを確保すること。
(d) 障害者が技術及び職業の指導に関する一般的な計画、職業紹介サービス並びに職業訓練及び継続的な訓練を効果的に利用することを可能とすること。
(e) 労働市場において障害者の雇用機会の増大を図り、及びその昇進を促進すること並びに職業を求め、これに就き、これを継続し、及びその職業に復帰する際の支援を促進すること。
(f) 自営活動の機会、起業能力、協同組合の発展及び自己の事業の開始を促進すること。
(g) 公的部門において障害者を雇用すること。
(h) 適当な政策及び措置(積極的差別是正措置、奨励措置その他の措置を含めることができる。)を通じて、民間部門における障害者の雇用を促進すること。
(i) 職場において合理的配慮が障害者に提供されることを確保すること。
(j) 開かれた労働市場において障害者が実務経験を取得することを促進すること。
(k) 障害者の職業リハビリテーション、職業の保持及び職場復帰計画を促進すること。

2 締約国は、障害者が、奴隷の状態又は隷属状態に置かれないこと及び他の者と平等に強制労働から保護されることを確保する。

第二十八条 相当な生活水準及び社会的な保障

1 締約国は、障害者及びその家族の相当な生活水準(相当な食糧、衣類及び住居を含む。)についての障害者の権利並びに生活条件の不断の改善についての障害者の権利を認めるものとし、障害を理由とする差別なしにこの権利を実現することを保障し、及び促進するための適当な措置をとる。

2 締約国は、社会的な保障についての障害者の権利及び障害を理由とする差別なしにこの権利を享受することについての障害者の権利を認めるものとし、この権利の実現を保障し、及び促進するための適当な措置をとる。この措置には、次の措置を含む。
(a) 障害者が清浄な水のサービスを平等に利用することを確保し、及び障害者が障害に関連するニーズに係る適当かつ利用可能なサービス、装置その他の援助を利用することを確保するための措置
(b) 障害者(特に、障害のある女子及び高齢者)が社会的な保障及び貧困削減に関する計画を利用することを確保するための措置
(c) 貧困の状況において生活している障害者及びその家族が障害に関連する費用を伴った国の援助(適当な研修、カウンセリング、財政的援助及び休息介護を含む。)を利用することを確保するための措置
(d) 障害者が公営住宅計画を利用することを確保するための措置
(e) 障害者が退職に伴う給付及び計画を平等に利用することを確保するための措置

第二十九条 政治的及び公的活動への参加

 締約国は、障害者に対して政治的権利を保障し、及び他の者と平等にこの権利を享受する機会を保障するものとし、次のことを約束する。
(a) 特に次のことを行うことにより、障害者が、直接に、又は自由に選んだ代表者を通じて、他の者と平等に政治的及び公的活動に効果的かつ完全に参加することができること(障害者が投票し、及び選挙される権利及び機会を含む。)を確保すること。
  (i) 投票の手続、設備及び資料が適当であり、利用可能であり、並びにその理解及び使用が容易であることを確保すること。
 (ii) 適当な場合には技術支援及び新たな技術の使用を容易にすることにより、障害者が、選挙及び国民投票において脅迫を受けることなく秘密投票によって投票する権利並びに選挙に立候補する権利並びに政府のあらゆる段階において効果的に在職し、及びあらゆる公務を遂行する権利を保護すること。
  (iii) 選挙人としての障害者の意思の自由な表明を保障すること。このため、必要な場合には、障害者の要請に応じて当該障害者が選択する者が投票の際に援助することを認めること。

(b) 障害者が、差別なしに、かつ、他の者と平等に政治に効果的かつ完全に参加することができる環境を積極的に促進し、及び政治への障害者の参加を奨励すること。政治への参加には、次のことを含む。
 (i) 国の公的及び政治的活動に関係のある非政府機関及び非政府団体に参加し、並びに政党の活動及び運営に参加すること。
 (ii) 国際、国内、地域及び地方の各段階において障害者を代表するための組織を結成し、並びにこれに参加すること。

第三十条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加

1 締約国は、障害者が他の者と平等に文化的な生活に参加する権利を認めるものとし、障害者が次のことを行うことを確保するためのすべての適当な措置をとる。
(a) 利用可能な様式を通じて、文化的な作品を享受すること。
(b) 利用可能な様式を通じて、テレビジョン番組、映画、演劇その他の文化的な活動を享受すること。
(c) 文化的な公演又はサービスが行われる場所(例えば、劇場、博物館、映画館、図書館、観光サービス)へのアクセスを享受し、並びにできる限り自国の文化的に重要な記念物及び遺跡へのアクセスを享受すること。
2 締約国は、障害者が、自己の利益のためのみでなく、社会を豊かにするためにも、創造的、芸術的及び知的な潜在能力を開発し、及び活用する機会を有することを可能とするための適当な措置をとる。
3 締約国は、国際法に従い、知的財産権を保護する法律が、障害者が文化的な作品を享受する機会を妨げる不当な又は差別的な障壁とならないことを確保するためのすべての適当な措置をとる。
4 障害者は、他の者と平等に、その独自の文化的及び言語的な同一性(手話及び聴覚障害者の文化を含む。)の承認及び支持を受ける権利を有する。
5 締約国は、障害者が他の者と平等にレクリエーション、余暇及びスポーツの活動に参加することを可能とすることを目的として、次のことのための適当な措置をとる。
(a) 障害者があらゆる水準の一般のスポーツ活動に可能な限り参加することを奨励し、及び促進すること。
(b) 障害者が障害に応じたスポーツ活動及びレクリエーション活動を組織し、及び発展させ、並びにこれらに参加する機会を有することを確保すること。このため、適当な指導、研修及び資源が他の者と平等に提供されるよう奨励すること。
(c) 障害者がスポーツ、レクリエーション及び観光の場所へのアクセスを認められることを確保すること。
(d) 障害のある児童が遊び、レクリエーション、余暇及びスポーツ活動(学校制度におけるこれらの活動を含む。)への参加について均等な機会を享受することを確保すること。
(e) 障害者がレクリエーション、観光、余暇及びスポーツ活動の企画に関与する者によるサービスを利用することを確保すること。

第三十一条 統計及び資料の収集

1 締約国は、この条約を実現するための政策を立案し、及び実施することを可能とするための適当な情報(統計資料及び研究資料を含む。)を収集することを約束する。この情報を収集し、及び保存する過程は、次のことを満たさなければならない。
(a) 障害者の秘密の保持及びプライバシーの尊重を確保するため、法令によって定められた保護(資料の保護に関する法令を含む。)を遵守すること。
(b) 人権及び基本的自由を保護するための国際的に受け入れられた規範並びに統計の収集及び利用に関する倫理上の原則を遵守すること。
2 この条の規定に従って収集された情報は、適宜分類されるものとし、この条約に基づく締約国の義務の履行の評価に役立てるため、並びに障害者がその権利を行使する際に直面する障壁を特定し、及び当該障壁に対処するために利用される。
3 締約国は、これらの統計の普及について責任を負うものとし、障害者及び他の者が当該統計を利用可能とすることを確保する。

第三十二条 国際協力

1 締約国は、この条約の目的及び趣旨を実現するための自国の努力を支援するために国際協力及びその促進が重要であることを認識し、この点に関し、国家間において並びに適当な場合には関連のある国際的及び地域的機関並びに市民社会(特に障害者の組織)と連携して、適当かつ効果的な措置をとる。これらの措置には、特に次のことを含むことができる。
(a) 国際協力(国際的な開発計画を含む。)が、障害者を受け入れ、かつ、障害者にとって利用可能なものであることを確保すること。
(b) 能力の開発(情報、経験、研修計画及び最良の実例の交換及び共有を通じたものを含む。)を容易にし、及び支援すること。
(c) 研究における協力並びに科学及び技術に関する知識の利用を容易にすること。
(d) 適当な場合には、技術援助及び経済援助(利用可能な支援技術の利用及び共有を容易にすることによる援助並びに技術移転を通じた援助を含む。)を提供すること。
2 この条の規定は、この条約に基づく義務を履行する各締約国の義務に影響を及ぼすものではない。

第三十三条 国内における実施及び監視

1 締約国は、自国の制度に従い、この条約の実施に関連する事項を取り扱う一又は二以上の中央連絡先を政府内に指定する。また、締約国は、異なる部門及び段階における関連のある活動を容易にするため、政府内における調整のための仕組みの設置又は指定に十分な考慮を払う。
2 締約国は、自国の法律上及び行政上の制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し、及び監視するための枠組み(適当な場合には、一又は二以上の独立した仕組みを含む。)を自国内において維持し、強化し、指定し、又は設置する。締約国は、このような仕組みを指定し、又は設置する場合には、人権の保護及び促進のための国内機構の地位及び役割に関する原則を考慮に入れる。
3 市民社会(特に、障害者及び障害者を代表する団体)は、監視の過程に十分に関与し、かつ、参加する。

第三十四条 障害者の権利に関する委員会

1 障害者の権利に関する委員会(以下「委員会」という。)を設置する。委員会は、以下に定める任務を遂行する。
2 委員会は、この条約の効力発生の時は十二人の専門家で構成する。更に六十の国がこの条約を批准し、又はこれに加入した後は、委員会の委員の数を六人まで増加させ、最大で十八人とする。
3 委員会の委員は、個人の資格で職務を遂行するものとし、徳望が高く、かつ、この条約が対象とする分野において能力及び経験を認められた者とする。締約国は、委員の候補者を指名するに当たり、第四条3の規定に十分な考慮を払うよう要請される。
4 委員会の委員については、締約国が、委員の配分が地理的に衡平に行われること、異なる文明形態及び主要な法体系が代表されること、男女が衡平に代表されること並びに障害のある専門家が参加することを考慮に入れて選出する。
5 委員会の委員は、締約国会議の会合において、締約国により当該締約国の国民の中から指名された者の名簿の中から秘密投票により選出される。締約国会議の会合は、締約国の三分の二をもって定足数とする。これらの会合においては、出席し、かつ、投票する締約国の代表によって投じられた票の最多数で、かつ、過半数の票を得た者をもって委員会に選出された委員とする。
6 委員会の委員の最初の選挙は、この条約の効力発生の日の後六箇月以内に行う。国際連合事務総長は、委員会の委員の選挙の日の遅くとも四箇月前までに、締約国に対し、自国が指名する者の氏名を二箇月以内に提出するよう書簡で要請する。その後、同事務総長は、指名された者のアルファベット順による名簿(これらの者を指名した締約国名を表示した名簿とする。)を作成し、この条約の締約国に送付する。
7 委員会の委員は、四年の任期で選出される。委員は、一回のみ再選される資格を有する。ただし、最初の選挙において選出された委員のうち六人の委員の任期は、二年で終了するものとし、これらの六人の委員は、最初の選挙の後直ちに、5に規定する会合の議長によりくじ引で選ばれる。
8 委員会の六人の追加的な委員の選挙は、この条の関連する規定に従って定期選挙の際に行われる。
9 委員会の委員が死亡し、辞任し、又は他の理由のために職務を遂行することができなくなったことを宣言した場合には、当該委員を指名した締約国は、残余の期間職務を遂行する他の専門家であって、資格を有し、かつ、この条の関連規定に定める条件を満たすものを任命する。
10 委員会は、その手続規則を定める。
11 国際連合事務総長は、委員会がこの条約に定める任務を効果的に遂行するために必要な職員及び便益を提供するものとし、委員会の最初の会合を招集する。
12 この条約に基づいて設置される委員会の委員は、国際連合総会が委員会の任務の重要性を考慮して決定する条件に従い、同総会の承認を得て、国際連合の財源から報酬を受ける。
13 委員会の委員は、国際連合の特権及び免除に関する条約の関連規定に規定する国際連合のための職務を遂行する専門家の便益、特権及び免除を享受する。

第三十五条 締約国による報告

1 各締約国は、この条約に基づく義務を履行するためにとった措置及びこれらの措置によりもたらされた進歩に関する包括的な報告を、この条約が自国について効力を生じた後二年以内に国際連合事務総長を通じて委員会に提出する。
2 その後、締約国は、少なくとも四年ごとに、更に委員会が要請するときはいつでも、その後の報告を提出する。
3 委員会は、報告の内容について適用される指針を決定する。
4 委員会に対して包括的な最初の報告を提出した締約国は、その後の報告においては、既に提供した情報を繰り返す必要はない。締約国は、委員会に対する報告を作成するに当たり、公開され、かつ、透明性のある過程において作成することを検討し、及び第四条3の規定に十分な考慮を払うよう要請される。
5 報告には、この条約に基づく義務の履行の程度に影響を及ぼす要因及び障害を記載することができる。

第三十六条 報告の検討

1 委員会は、各報告を検討する。委員会は、当該報告について、適当と認める提案及び一般的な性格を有する勧告を行うことができるものとし、これらの提案及び一般的な性格を有する勧告を関係締約国に送付する。当該関係締約国は、委員会に対し、自国が選択する情報を提供することにより回答することができる。委員会は、この条約の実施に関連する追加の情報を当該関係締約国に要請することができる。
2 いずれかの締約国による報告の提出が著しく遅延している場合には、委員会は、委員会にとって利用可能な信頼し得る情報を基礎として当該締約国におけるこの条約の実施状況を審査することが必要であることを当該締約国に通報することができる。ただし、この審査は、関連する報告がその通報の後三箇月以内に提出されない場合にのみ行われる。委員会は、当該締約国がその審査に参加するよう要請する。当該締約国が関連する報告を提出することにより回答する場合には、1の規定を適用する。
3 国際連合事務総長は、1の報告をすべての締約国が利用することができるようにする。
4 締約国は、1の報告を自国において公衆が広く利用することができるようにし、これらの報告に関連する提案及び一般的な性格を有する勧告の利用を容易にする。
5 委員会は、適当と認める場合には、締約国からの報告に記載されている技術的な助言若しくは援助の要請又はこれらの必要性の記載に対処するため、これらの要請又は必要性の記載に関する委員会の見解及び勧告がある場合には当該見解及び勧告とともに、国際連合の専門機関、基金及び計画その他の権限のある機関に当該報告を送付する。

第三十七条 締約国と委員会との間の協力

1 各締約国は、委員会と協力するものとし、委員の任務の遂行を支援する。
2 委員会は、締約国との関係において、この条約の実施のための当該締約国の能力を向上させる方法及び手段(国際協力を通じたものを含む。)に十分な考慮を払う。

第三十八条 委員会と他の機関との関係

 この条約の効果的な実施を促進し、及びこの条約が対象とする分野における国際協力を奨励するため、
(a) 専門機関その他の国際連合の機関は、その任務の範囲内にある事項に関するこの条約の規定の実施についての検討に際し、代表を出す権利を有する。委員会は、適当と認める場合には、専門機関その他の権限のある機関に対し、これらの機関の任務の範囲内にある事項に関するこの条約の実施について専門家の助言を提供するよう要請することができる。委員会は、専門機関その他の国際連合の機関に対し、これらの機関の任務の範囲内にある事項に関するこの条約の実施について報告を提出するよう要請することができる。
(b) 委員会は、その任務を遂行するに当たり、それぞれの報告に係る指針、提案及び一般的な性格を有する勧告の整合性を確保し、並びにその任務の遂行における重複を避けるため、適当な場合には、人権に関する国際条約によって設置された他の関連する組織と協議する。

第三十九条 委員会の報告

 委員会は、その活動につき二年ごとに国際連合総会及び経済社会理事会に報告するものとし、また、締約国から得た報告及び情報の検討に基づく提案及び一般的な性格を有する勧告を行うことができる。これらの提案及び一般的な性格を有する勧告は、締約国から意見がある場合にはその意見とともに、委員会の報告に記載する。

第四十条 締約国会議

1 締約国は、この条約の実施に関する事項を検討するため、定期的に締約国会議を開催する。
2 締約国会議は、この条約が効力を生じた後六箇月以内に国際連合事務総長が招集する。その後の締約国会議は、二年ごとに又は締約国会議の決定に基づき同事務総長が招集する。

第四十一条 寄託

 この条約の寄託者は、国際連合事務総長とする。

第四十二条 署名

 この条約は、二千七年三月三十日から、ニューヨークにある国際連合本部において、すべての国及び地域的な統合のための機関による署名のために開放しておく。

第四十三条 拘束されることについての同意

 この条約は、署名国によって批准されなければならず、また、署名した地域的な統合のための機関によって正式確認されなければならない。この条約は、これに署名していない国及び地域的な統合のための機関による加入のために開放しておく。

第四十四条 地域的な統合のための機関

1 「地域的な統合のための機関」とは、特定の地域の主権国家によって構成される機関であって、この条約が規律する事項に関してその構成国から権限の委譲を受けたものをいう。地域的な統合のための機関は、この条約の規律する事項に関するその権限の範囲をこの条約の正式確認書又は加入書において宣言する。その後、当該機関は、その権限の範囲の実質的な変更を寄託者に通報する。
2 この条約において「締約国」についての規定は、地域的な統合のための機関の権限の範囲内で当該機関について適用する。
3 次条1並びに第四十七条2及び3の規定の適用上、地域的な統合のための機関が寄託する文書は、これを数に加えてはならない。
4 地域的な統合のための機関は、その権限の範囲内の事項について、この条約の締約国であるその構成国の数と同数の票を締約国会議において投ずる権利を行使することができる。当該機関は、その構成国が自国の投票権を行使する場合には、投票権を行使してはならない。その逆の場合も、同様とする。

第四十五条 効力発生

1 この条約は、二十番目の批准書又は加入書が寄託された後三十日目の日に効力を生ずる。
2 この条約は、二十番目の批准書、正式確認書又は加入書が寄託された後にこれを批准し、若しくは正式確認し、又はこれに加入する国又は地域的な統合のための機関については、その批准書、正式確認書又は加入書の寄託の後三十日目の日に効力を生ずる。

第四十六条 留保

1 この条約の趣旨及び目的と両立しない留保は、認められない。
2 留保は、いつでも撤回することができる。

第四十七条 改正

1 いずれの締約国も、この条約の改正を提案し、及び改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、締約国に対し、改正案を送付するものとし、締約国による改正案の審議及び決定のための締約国の会議の開催についての賛否を通報するよう要請する。その送付の日から四箇月以内に締約国の三分の一以上が会議の開催に賛成する場合には、同事務総長は、国際連合の主催の下に会議を招集する。会議において出席し、かつ、投票する締約国の三分の二以上の多数によって採択された改正案は、同事務総長により、承認のために国際連合総会に送付され、その後受諾のためにすべての締約国に送付される。
2 1の規定により採択され、かつ、承認された改正は、当該改正の採択の日における締約国の三分の二以上が受諾書を寄託した後三十日目の日に効力を生ずる。その後は、当該改正は、いずれの締約国についても、その受諾書の寄託の後三十日目の日に効力を生ずる。改正は、それを受諾した締約国のみを拘束する。
3 締約国会議がコンセンサス方式によって決定する場合には、1の規定により採択され、かつ、承認された改正であって、第三十四条及び第三十八条から第四十条までにのみ関連するものは、当該改正の採択の日における締約国の三分の二以上が受諾書を寄託した後三十日目の日に効力を生ずる。

第四十八条 廃棄

 締約国は、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。廃棄は、同事務総長がその通告を受領した日の後一年で効力を生ずる。

第四十九条 利用可能な様式

 この条約は、利用可能な様式で提供される。

第五十条 正文

 この条約は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とする。

|

2009年12月19日 (土)

「地域包括支援センター」

高齢者の問題に関わるとき、「地域包括支援センター」の役割は非常に大きくなっています。そこで今回は、この「地域包括」についてご紹介します。

設置根拠は介護保険法115条の45です。市町村が設置することになっていますが、医療法人や社会福祉法人に委託することもできます。

果たすべき役割は同法115条の44にあるように、
同法115条の45第1項②~⑤;
・介護予防ケアマネジメント事業
  要支援、要介護になるおそれの高い高齢者をスクリーニングし、介護予防サービスを提供するためのマネジメント
・総合相談、支援事業
  地域の高齢者の実態把握、相談等に対応可能な関係機関へのつなぎ等
・権利擁護事業
  虐待の防止や早期発見を含む権利擁護に関する事業
・包括的、継続的ケアマネジメント事業
  支援困難事例に関するケアマネージャーへの助言等
です。

地域のアクセスしやすい至近にこのような中核機関があることの意義は大きいと思います。ただし熱心な地域包括ほどそのスタッフにかかる負荷(物理的、心理的とも)も大きく、他機関や専門職との緊密な連携が、今後の重要な課題になっていると感じます。

なお参考文献としては、厚労省老健局計画課「地域包括支援センターの意義と役割」(「実践成年後見No.15」12頁(2005.10))などが、よくまとまっていると思います。この号は地域高齢者福祉の特集号ですので、高齢者福祉や地域福祉に関心がある方は、読んでみてはいかがでしょうか。

※以下参考条文

(地域包括支援センター)
第百十五条の四十五  地域包括支援センターは、前条第一項第二号から第五号までに掲げる事業(以下「包括的支援事業」という。)その他厚生労働省令で定める事業を実施し、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設とする。
2  市町村は、地域包括支援センターを設置することができる。
3  次条第一項の委託を受けた者は、包括的支援事業その他第一項の厚生労働省令で定める事業を実施するため、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、厚生労働省令で定める事項を市町村長に届け出て、地域包括支援センターを設置することができる。
4  地域包括支援センターの設置者は、包括的支援事業を実施するために必要なものとして厚生労働省令で定める基準を遵守しなければならない。
5  地域包括支援センターの設置者(設置者が法人である場合にあっては、その役員)若しくはその職員又はこれらの職にあった者は、正当な理由なしに、その業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
6  第六十九条の十四の規定は、地域包括支援センターについて準用する。この場合において、同条の規定に関し必要な技術的読替えは、政令で定める。
7  前各項に規定するもののほか、地域包括支援センターに関し必要な事項は、政令で定める。

(地域支援事業)
第百十五条の四十四  市町村は、被保険者が要介護状態等となることを予防するとともに、要介護状態等となった場合においても、可能な限り、地域において自立した日常生活を営むことができるよう支援するため、地域支援事業として、次に掲げる事業を行うものとする。
一  被保険者(第一号被保険者に限る。)の要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止のため必要な事業(介護予防サービス事業及び地域密着型介護予防サービス事業を除く。)
二  被保険者が要介護状態等となることを予防するため、その心身の状況、その置かれている環境その他の状況に応じて、その選択に基づき、前号に掲げる事業その他の適切な事業が包括的かつ効率的に提供されるよう必要な援助を行う事業
三  被保険者の心身の状況、その居宅における生活の実態その他の必要な実情の把握、保健医療、公衆衛生、社会福祉その他の関連施策に関する総合的な情報の提供、関係機関との連絡調整その他の被保険者の保健医療の向上及び福祉の増進を図るための総合的な支援を行う事業
四  被保険者に対する虐待の防止及びその早期発見のための事業その他の被保険者の権利擁護のため必要な援助を行う事業
五  保健医療及び福祉に関する専門的知識を有する者による被保険者の居宅サービス計画及び施設サービス計画の検証、その心身の状況、介護給付等対象サービスの利用状況その他の状況に関する定期的な協議その他の取組を通じ、当該被保険者が地域において自立した日常生活を営むことができるよう、包括的かつ継続的な支援を行う事業
2  市町村は、前項各号に掲げる事業のほか、地域支援事業として、次に掲げる事業を行うことができる。
一  介護給付等に要する費用の適正化のための事業
二  介護方法の指導その他の要介護被保険者を現に介護する者の支援のため必要な事業
三  その他介護保険事業の運営の安定化及び被保険者の地域における自立した日常生活の支援のため必要な事業
3  地域支援事業は、当該市町村における介護予防に関する事業の実施状況、介護保険の運営の状況その他の状況を勘案して政令で定める額の範囲内で行うものとする。
4  市町村は、地域支援事業の利用者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、利用料を請求することができる。
5  厚生労働大臣は、第一項第一号の規定により市町村が行う事業に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
6  前各項に規定するもののほか、地域支援事業の実施に関し必要な事項は、政令で定める。

(実施の委託)
第百十五条の四十六  市町村は、老人福祉法第二十条の七の二第一項 に規定する老人介護支援センターの設置者その他の厚生労働省令で定める者に対し、包括的支援事業の実施を委託することができる。

|

2009年8月22日 (土)

高齢者虐待防止法(条文)

高齢者虐待防止法は2005(平成17)年に制定されました(ちなみに児童虐待防止法は2000年、DV防止法は2001年各制定)。まだまだその活用は十分とはいえませんが、高齢者虐待に対する弁護士の対応を考える際に、まずはその条文を知ることは大切です。以下、条文をそのまま貼り付けておきます。携帯からちょっと条文を確認したいときなど、ご活用下さい。

●高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律
(平成17年11月9日法律第124号)

 第一章 総則(第1条~第5条)
 第二章 養護者による高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等(第6条~第19条)
 第三章 養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止等(第20条~第25条)
 第四章 雑則(第26条~第28条)
 第五章 罰則(第29条・第30条)
 附則

   第一章 総則

(目的)
第一条  この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援(以下「養護者に対する支援」という。)のための措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「高齢者」とは、65歳以上の者をいう。
2 この法律において「養護者」とは、高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等(第5項第1号の施設の業務に従事する者及び同項第2号の事業において業務に従事する者をいう。以下同じ。)以外のものをいう。
3  この法律において「高齢者虐待」とは、養護者による高齢者虐待及び養介護施設従事者等による高齢者虐待をいう。
4  この法律において「養護者による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
一  養護者がその養護する高齢者について行う次に掲げる行為
イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること
ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること
ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること
二  養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること
5  この法律において「養介護施設従事者等による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
一  老人福祉法(昭和38年法律第133号)第5条の3に規定する老人福祉施設若しくは同法第29条第1項に規定する有料老人ホーム又は介護保険法(平成9年法律第123号)第8条第20項に規定する地域密着型介護老人福祉施設、同条第24項に規定する介護老人福祉施設、同条第25項に規定する介護老人保健施設、同条第26項に規定する介護療養型医療施設若しくは同法第115条の39第1項に規定する地域包括支援センター(以下「養介護施設」という。)の業務に従事する者が、当該養介護施設に入所し、その他当該養介護施設を利用する高齢者について行う次に掲げる行為
イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること
ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること
ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること
ホ 高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること
二  老人福祉法第5条の2第1項に規定する老人居宅生活支援事業又は介護保険法第8条第1項に規定する居宅サービス事業、同条第14項に規定する地域密着型サービス事業、同条第21項に規定する居宅介護支援事業、同法第8条の2第1項に規定する介護予防サービス事業、同条第14項に規定する地域密着型介護予防サービス事業若しくは同条第18項に規定する介護予防支援事業(以下「養介護事業」という。)において業務に従事する者が、当該養介護事業に係るサービスの提供を受ける高齢者について行う前号イからホまでに掲げる行為

(国及び地方公共団体の責務等)
第三条  国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止、高齢者虐待を受けた高齢者の迅速かつ適切な保護及び適切な養護者に対する支援を行うため、関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努めなければならない。
2  国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止及び高齢者虐待を受けた高齢者の保護並びに養護者に対する支援が専門的知識に基づき適切に行われるよう、これらの職務に携わる専門的な人材の確保及び資質の向上を図るため、関係機関の職員の研修等必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
3  国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止及び高齢者虐待を受けた高齢者の保護に資するため、高齢者虐待に係る通報義務、人権侵犯事件に係る救済制度等について必要な広報その他の啓発活動を行うものとする。

(国民の責務)
第四条  国民は、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等の重要性に関する理解を深めるとともに、国又は地方公共団体が講ずる高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等のための施策に協力するよう努めなければならない。

(高齢者虐待の早期発見等)
第五条  養介護施設、病院、保健所その他高齢者の福祉に業務上関係のある団体及び養介護施設従事者等、医師、保健師、弁護士その他高齢者の福祉に職務上関係のある者は、高齢者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、高齢者虐待の早期発見に努めなければならない。
2  前項に規定する者は、国及び地方公共団体が講ずる高齢者虐待の防止のための啓発活動及び高齢者虐待を受けた高齢者の保護のための施策に協力するよう努めなければならない。

   第二章 養護者による高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等

(相談、指導及び助言)
第六条  市町村は、養護者による高齢者虐待の防止及び養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護のため、高齢者及び養護者に対して、相談、指導及び助言を行うものとする。

(養護者による高齢者虐待に係る通報等)
第七条  養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない
2  前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない
3  刑法(明治40年法律第45号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前2項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない

第八条  市町村が前条第1項若しくは第2項の規定による通報又は次条第1項に規定する届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村の職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。

(通報等を受けた場合の措置)
第九条  市町村は、第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は高齢者からの養護者による高齢者虐待を受けた旨の届出を受けたときは、速やかに、当該高齢者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずるとともに、第16条の規定により当該市町村と連携協力する者(以下「高齢者虐待対応協力者」という。)とその対応について協議を行うものとする。
2  市町村又は市町村長は、第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は前項に規定する届出があった場合には、当該通報又は届出に係る高齢者に対する養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護が図られるよう、養護者による高齢者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を一時的に保護するため迅速に老人福祉法第20条の3に規定する老人短期入所施設等に入所させる等、適切に、同法第10条の4第1項若しくは第11条第1項の規定による措置を講じ、又は、適切に、同法第32条の規定により審判の請求をするものとする。

(居室の確保)
第十条  市町村は、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者について老人福祉法第10条の4第1項第3号又は第11条第1項第1号若しくは第2号の規定による措置を採るために必要な居室を確保するための措置を講ずるものとする。

(立入調査)
第十一条  市町村長は、養護者による高齢者虐待により高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは、介護保険法第115条の39第2項の規定により設置する地域包括支援センターの職員その他の高齢者の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該高齢者の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる
2  前項の規定による立入り及び調査又は質問を行う場合においては、当該職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。
3  第1項の規定による立入り及び調査又は質問を行う権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

(警察署長に対する援助要請等)
第十二条  市町村長は、前条第1項の規定による立入り及び調査又は質問をさせようとする場合において、これらの職務の執行に際し必要があると認めるときは、当該高齢者の住所又は居所の所在地を管轄する警察署長に対し援助を求めることができる
2  市町村長は、高齢者の生命又は身体の安全の確保に万全を期する観点から、必要に応じ適切に、前項の規定により警察署長に対し援助を求めなければならない。
3  警察署長は、第1項の規定による援助の求めを受けた場合において、高齢者の生命又は身体の安全を確保するため必要と認めるときは、速やかに、所属の警察官に、同項の職務の執行を援助するために必要な警察官職務執行法(昭和23年法律第136号)その他の法令の定めるところによる措置を講じさせるよう努めなければならない

(面会の制限)
第十三条  養護者による高齢者虐待を受けた高齢者について老人福祉法第11条第1項第2号又は第3号の措置が採られた場合においては、市町村長又は当該措置に係る養介護施設の長は、養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護の観点から、当該養護者による高齢者虐待を行った養護者について当該高齢者との面会を制限することができる。

(養護者の支援)
第十四条  市町村は、第6条に規定するもののほか、養護者の負担の軽減のため、養護者に対する相談、指導及び助言その他必要な措置を講ずるものとする。
2  市町村は、前項の措置として、養護者の心身の状態に照らしその養護の負担の軽減を図るため緊急の必要があると認める場合に高齢者が短期間養護を受けるために必要となる居室を確保するための措置を講ずるものとする。

(専門的に従事する職員の確保)
第十五条  市町村は、養護者による高齢者虐待の防止、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援を適切に実施するために、これらの事務に専門的に従事する職員を確保するよう努めなければならない。

(連携協力体制)
第十六条  市町村は、養護者による高齢者虐待の防止、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援を適切に実施するため、老人福祉法第20条の7の2第1項に規定する老人介護支援センター、介護保険法第115条の39第3項の規定により設置された地域包括支援センターその他関係機関、民間団体等との連携協力体制を整備しなければならない。この場合において、養護者による高齢者虐待にいつでも迅速に対応することができるよう、特に配慮しなければならない。

(事務の委託)
第十七条  市町村は、高齢者虐待対応協力者のうち適当と認められるものに、第6条の規定による相談、指導及び助言、第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は第9条第1項に規定する届出の受理、同項の規定による高齢者の安全の確認その他通報又は届出に係る事実の確認のための措置並びに第14条第1項の規定による養護者の負担の軽減のための措置に関する事務の全部又は一部を委託することができる。
2  前項の規定による委託を受けた高齢者虐待対応協力者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由なしに、その委託を受けた事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
3  第1項の規定により第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は第9条第1項に規定する届出の受理に関する事務の委託を受けた高齢者虐待対応協力者が第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は第9条第1項に規定する届出を受けた場合には、当該通報又は届出を受けた高齢者虐待対応協力者又はその役員若しくは職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。

(周知)
第十八条  市町村は、養護者による高齢者虐待の防止、第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は第9条第1項に規定する届出の受理、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護、養護者に対する支援等に関する事務についての窓口となる部局及び高齢者虐待対応協力者の名称を明示すること等により、当該部局及び高齢者虐待対応協力者を周知させなければならない。

(都道府県の援助等)
第十九条  都道府県は、この章の規定により市町村が行う措置の実施に関し、市町村相互間の連絡調整、市町村に対する情報の提供その他必要な援助を行うものとする。
2  都道府県は、この章の規定により市町村が行う措置の適切な実施を確保するため必要があると認めるときは、市町村に対し、必要な助言を行うことができる。

   第三章 養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止等

(養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止等のための措置)
第二十条  養介護施設の設置者又は養介護事業を行う者は、養介護施設従事者等の研修の実施、当該養介護施設に入所し、その他当該養介護施設を利用し、又は当該養介護事業に係るサービスの提供を受ける高齢者及びその家族からの苦情の処理の体制の整備その他の養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止等のための措置を講ずるものとする。

(養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報等)
第二十一条  養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業(当該養介護施設の設置者若しくは当該養介護事業を行う者が設置する養介護施設又はこれらの者が行う養介護事業を含む。)において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない
2  前項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない
3  前2項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない
4  養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けた高齢者は、その旨を市町村に届け出ることができる。
5  第18条の規定は、第1項から第3項までの規定による通報又は前項の規定による届出の受理に関する事務を担当する部局の周知について準用する。
6  刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第1項から第3項までの規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。
7  養介護施設従事者等は、第1項から第3項までの規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。

第二十二条  市町村は、前条第1項から第3項までの規定による通報又は同条第四項の規定による届出を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該通報又は届出に係る養介護施設従事者等による高齢者虐待に関する事項を、当該養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る養介護施設又は当該養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る養介護事業の事業所の所在地の都道府県に報告しなければならない。
2  前項の規定は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市及び同法第252条の22第1項の中核市については、厚生労働省令で定める場合を除き、適用しない。

第二十三条  市町村が第21条第1項から第3項までの規定による通報又は同条第4項の規定による届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村の職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。都道府県が前条第1項の規定による報告を受けた場合における当該報告を受けた都道府県の職員についても、同様とする。

(通報等を受けた場合の措置)
第二十四条  市町村が第21条第1項から第3項までの規定による通報若しくは同条第4項の規定による届出を受け、又は都道府県が第22条第1項の規定による報告を受けたときは、市町村長又は都道府県知事は、養介護施設の業務又は養介護事業の適正な運営を確保することにより、当該通報又は届出に係る高齢者に対する養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護を図るため、老人福祉法又は介護保険法の規定による権限を適切に行使するものとする。

(公表)
第二十五条  都道府県知事は、毎年度、養介護施設従事者等による高齢者虐待の状況、養介護施設従事者等による高齢者虐待があった場合にとった措置その他厚生労働省令で定める事項を公表するものとする。

   第四章 雑則

(調査研究)
第二十六条  国は、高齢者虐待の事例の分析を行うとともに、高齢者虐待があった場合の適切な対応方法、高齢者に対する適切な養護の方法その他の高齢者虐待の防止、高齢者虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援に資する事項について調査及び研究を行うものとする。

(財産上の不当取引による被害の防止等)
第二十七条  市町村は、養護者、高齢者の親族又は養介護施設従事者等以外の者が不当に財産上の利益を得る目的で高齢者と行う取引(以下「財産上の不当取引」という。)による高齢者の被害について、相談に応じ、若しくは消費生活に関する業務を担当する部局その他の関係機関を紹介し、又は高齢者虐待対応協力者に、財産上の不当取引による高齢者の被害に係る相談若しくは関係機関の紹介の実施を委託するものとする。
2  市町村長は、財産上の不当取引の被害を受け、又は受けるおそれのある高齢者について、適切に、老人福祉法第三十二条の規定により審判の請求をするものとする。

(成年後見制度の利用促進)
第二十八条  国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止及び高齢者虐待を受けた高齢者の保護並びに財産上の不当取引による高齢者の被害の防止及び救済を図るため、成年後見制度の周知のための措置、成年後見制度の利用に係る経済的負担の軽減のための措置等を講ずることにより、成年後見制度が広く利用されるようにしなければならない

   第五章 罰則

第二十九条  第17条第2項の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

第三十条  正当な理由がなく、第11条第1項の規定による立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは高齢者に答弁をさせず、若しくは虚偽の答弁をさせた者は、30万円以下の罰金に処する。

   附 則

(施行期日)
1  この法律は、平成18年4月1日から施行する。
(検討)
2  高齢者以外の者であって精神上又は身体上の理由により養護を必要とするものに対する虐待の防止等のための制度については、速やかに検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
3  高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等のための制度については、この法律の施行後3年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

★参考:老人福祉法

(居宅における介護等)
第十条の四  市町村は、必要に応じて、次の措置を採ることができる。
一  65歳以上の者であつて、身体上又は精神上の障害があるために日常生活を営むのに支障があるものが、やむを得ない事由により介護保険法 に規定する訪問介護、夜間対応型訪問介護又は介護予防訪問介護を利用することが著しく困難であると認めるときは、その者につき、政令で定める基準に従い、その者の居宅において第5条の2第2項の厚生労働省令で定める便宜を供与し、又は当該市町村以外の者に当該便宜を供与することを委託すること。
三  65歳以上の者であつて、養護者の疾病その他の理由により、居宅において介護を受けることが一時的に困難となつたものが、やむを得ない事由により介護保険法 に規定する短期入所生活介護又は介護予防短期入所生活介護を利用することが著しく困難であると認めるときは、その者を、政令で定める基準に従い、当該市町村の設置する老人短期入所施設若しくは第5条の2第4項の厚生労働省令で定める施設(以下「老人短期入所施設等」という。)に短期間入所させ、養護を行い、又は当該市町村以外の者の設置する老人短期入所施設等に短期間入所させ、養護することを委託すること。

(老人ホームへの入所等)
第十一条  市町村は、必要に応じて、次の措置を採らなければならない。
一  65歳以上の者であつて、環境上の理由及び経済的理由(政令で定めるものに限る。)により居宅において養護を受けることが困難なものを当該市町村の設置する養護老人ホームに入所させ、又は当該市町村以外の者の設置する養護老人ホームに入所を委託すること。
二  65歳以上の者であつて、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なものが、やむを得ない事由により介護保険法 に規定する地域密着型介護老人福祉施設又は介護老人福祉施設に入所することが著しく困難であると認めるときは、その者を当該市町村の設置する特別養護老人ホームに入所させ、又は当該市町村以外の者の設置する特別養護老人ホームに入所を委託すること。
三  65歳以上の者であつて、養護者がないか、又は養護者があつてもこれに養護させることが不適当であると認められるものの養護を養護受託者(老人を自己の下に預つて養護することを希望する者であつて、市町村長が適当と認めるものをいう。以下同じ。)のうち政令で定めるものに委託すること。

(審判の請求)
第三十二条  市町村長は、65歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第7条 、第11条、第13条第2項、第15条第1項、第17条第1項、第876条の4第1項又は第876条の9第1項に規定する審判の請求をすることができる。

|

2009年8月21日 (金)

高齢者の生活の場

高齢者の生活の場にはいろいろなものがあり、高齢者福祉分野に弁護士として関わるときにはそれらの知識が必要になりますが、設置根拠など、なかなか整理する機会がありません。そこで今日は、ちょっとがんばって整理してみました(ただし、デイサービスなどは省略)。

…だいたいこんな感じで合ってるでしょうか?僕がいつもお世話になっている福祉専門職の方々、下記に間違っているところがあれば、今度お会いしたときに、ぜひご指導下さい m(__)m

1 老人福祉施設
 (①~③:老人保健法5条の3)
①養護老人ホーム(20条の4)
 …65歳以上、居宅での養護が困難な場合
②特別養護老人ホーム(特養:20条の5)
 …65歳以上、「身体・精神の障害により」
  常時介護を必要とし、在宅介護が困難な場合
③軽費老人ホーム(20条の6)
 …60歳以上、無料~定額料金
 A型=家庭環境や住宅事情で居宅生活困難
 B型=A型のうち健康で自炊可能
 C型(ケアハウス)=自炊できない程度の
         健康状態:所得制限なし
④(介護型)有料老人ホーム(29条)
 …食事(・介護)付

2 介護保険施設(介護保険法)
①介護療養型医療施設(療養病床:8条26項)
 …要介護1以上の長期間の療養介護が
  必要な人が入所(かつての「老人病院」)
  (平成23年末で廃止)
②指定介護老人福祉施設(8条21項)
 …特養のうち、施設サービス計画に基づき
  介護・機能訓練・健康管理・療養上の世話
  を行うことを目的とする施設
  (特養と実質的に同一)
③介護老人保健施設(老健:8条22項)
 …要介護者に対し施設サービス計画に基づき
  看護・医学的管理下の介護・機能訓練
  (リハビリ)その他医療ケア・日常生活の
  ケア(介護)を行う施設(在宅復帰が目的)
④介護療養型老人保健施設
 (「転換型老健」「新型老健」)
 …平成20年5月新設、療養病床の受け皿
  :特養や老健よりも、看護師が24時間
   配置されるなど、医療が充実

※①②③…「介護保険三施設」
※なお介護保険法は、旧老人福祉法から移行。

3 その他
①認知症高齢者グループホーム
(介護保険法8条の18「認知症対応型共同生活介護」)
 …認知症高齢者が介護、機能訓練を受けつつ、
  少人数で共同生活
②高齢者集合住宅(シルバーピア)
 …地方自治体などが独居高齢者向けに作っている
  公営住宅、自立生活支援設備付き

|

2008年1月 4日 (金)

ある成年後見申立事例

今日は成年後見申立の準備のため、某病院に行ってきました。本人確認をし、主治医から本人の病状を聞き、診断書の作成依頼をしてきました。

さて、成年後見申立で、記憶に残っているケースがあります(以下の事実関係は、本来の事案から修正してあります)。

ある日突然夫が倒れ、「植物状態」になってしまったケースです。

夫が倒れたとたん、夫宛にサラ金からの請求が殺到し、妻は、夫がサラ金から多額の借金をしていたことを知りました。どうも、夫が妻に内緒で投機をしてできた借金のようでした。そのほかにも自分が知らなかったことが、ぞろぞろとたくさん出てきました。住宅ローンも残っていました。2人の子どもはまだ中学生と高校生。

夫を責めようにも、事実関係を問いただそうにも、夫からはもはや反応は返ってきません。
自分の身内には援助できるだけの経済的な余裕がなく、夫側の親族は自分たちに負担が及ぶのを恐れたのか、冷たい反応でした。そんな中でも、日々、高額の医療費もかかってきます。

残された妻は途方にくれ、年の瀬に切羽詰まったパニック状態で法テラスに駆け込み、私が緊急受任しました。

住宅ローンは団体信用保険で弁済され、なんとか確保できました。
しかし多額の借金は残っています。う~ん、どうしよう…

結局、成年後見申立をし、夫の後見人に、家庭裁判所で、弁護士を選任してもらいました(家庭裁判所には、後見人候補者の名簿のようなものがあり、裁判所はそこからケースごとに後見人候補を選び、打診するのです。)。
そしてその後見人に、生命保険(…これに加入していたので、このケースは妻子が救われたのです!)の手続きをしてもらい、またサラ金各社との和解交渉をしてもらうことにしました。

最終的に、保険金でサラ金借り入れ分は返済可能となり、その他いろいろな手続きを経て、これまでと全く同じとは行きませんが、妻子が生活していくめども、なんとか付きました。

今日事務所に行ったら、その時の依頼者さんから、年賀状が来ていました。その後の生活も軌道に乗っているようです。一つの家族をなんとか守れたと思うと、ほっとしました。

年賀状と今日の病院訪問が、私にそのケースを思い出させてくれました。正直なところ最初は受任を躊躇した事件でしたが(解決のための明確な方針がすぐには立てられなかったので)、引き受けてよかった、私たちマチ弁はこういう、深刻に弁護士を必要としているケースから逃げてはいけないんだと、あらためて思いました。

成年後見が定着した効果か、成年後見人となる弁護士のスキルも、また制度の柔軟性も、向上していると思います。このケースも、当初報酬見込みも立たなかった中で後見人を引き受けてくださった、しかも有能な弁護士に、感謝、です。
それとともに、このような事例でも後見人に確実に報酬が支払われるような制度が作れないものか、と思います。この事例のほかにも、後見人への報酬が用意できないけれども、家族のような「身内の素人」ではなく弁護士のような「第三者専門家」を後見人にする必要があるケースが、結構多いので…

|