ハーグ条約(研修)
某所研修で、ハーグ条約(付随して「法律と条約の違い」)についてお話ししました。
その際に作成したレジュメ(ちょっとだけ加筆)を以下にアップしておきます。ご活用ください。
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1 前提として・・・「法律」と「条約」
(1) 違い
(法律)
国会で決める(憲法59条)
↑
↓
(条約)
文書による国家間の合意
内閣が締結、国会が承認(憲法73条3号)
(2)条約の国内法としての効力
憲法98条2項:
日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、
これを誠実に遵守することを必要とする。
→適用可能なものはそのまま国内法として効力あり
条約の実施のために必要な立法措置をとるものもあり
2 「子の奪取に関するハーグ条約」とは?
正式名称:国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約
・・子どもがそれまで生活していた常居所地国に
子を迅速に変換するための国際協力の仕組み、
国境を越えた親子の面会交流の実現のための
協力について定めている。
適用対象=16歳未満の子の、国境を越えた移動
3 ハーグ条約の歴史
国際結婚の増加
→1970年代~
一方の親による子の連れ去りや監護権を
めぐる国際裁判管轄の問題発生
1976年 「ハーグ国際私法会議」が、この問題を検討することを決定
1980年10月25日 ハーグ条約作成
→条文(英・和):
http://www.moj.go.jp/content/000076987.pdf
2013年6月現在、90か国が加盟
日本・・現在加盟準備(法整備)中
2013年5月 国会が加盟承認
2013年6月 「国際的な子の奪取の民事上の側面に
関する条約の実施に関する法律」成立
・・施行日=条約発効日
条文等→ http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00122.html
加盟=来年4月?(13/10/23毎日新聞報道)
4 条約の構造(全45条)
参考:外務省HP
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol82/index.html
(1)中央当局の任務
「中央当局」=条約上、加盟国に設置を義務付けられた政府の窓口
(2)返還裁判(条約11条、12条2項)
<返還事由の証明>
① 子が16歳未満
② 子が日本に所在
③ 常居所地国法に基づく子の監護の権利の侵害
④ 奪取時に常居所地国が条約加盟国であったこと
<返還拒否事由の証明>
① 連れ去りから1年以上経過し、子が新たな環境に適応
② 申請者が事前の同意又は事後の黙認
③ 返還により子が心身に害悪を受け、又は他の耐え難い状況に置かれることとなる重大な危険
④ 子が返還されることを拒み、かつその子が意見を考慮するのに十分な年齢・成熟度に達している
5 日本は?
日本=G8唯一の未加盟国
2013年5月 国会で加盟承認
6 なぜ慎重?
加盟に慎重な立場=
子連れ帰国の中には夫からの暴力等からの避難事例が少なくないこと
個別背景を無視して返還原則を貫いてよいのか(子の利益は?)
参考:「国際的な子の奪取に関するハーグ条約」批准がはらむ問題点
(伊藤和子弁護士)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/itokazuko/20130324-00024025/
7 日本の実施法
「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」:全153条
<返還事由の証明>(法27条)
① 子が16歳未満
② 子が日本に所在
③ 常居所地国法に基づく子の監護の権利の侵害
④ 奪取時に常居所地国が条約加盟国であったこと
<返還拒否事由の証明>(法28条)
「重大な危険の抗弁」
子の返還により、子の心身に害悪を及ぼし、又はその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること(条約13条1項b)=法28条1項4号
・・夫婦間暴力への考慮は?
法28条2項:「重大な危険」の考慮事由
① 子が直接に暴力を受ける恐れ
② 相手方及び子が常居所地国に入国した場合に相手方が申立人から子に心的外傷を与えることとなる暴力等を受ける恐れの有無
③ 常居所地国で申立人または相手方による子の監護が困難な事情の有無
・・世界的に見て異例の立法(=返還拒否の範囲拡大/条約の変換原則の逸脱?)
※諸外国実績:2008年統計では、中央当局への返還申請1903件のうち、
司法判断に至ったのは835件(約44%)、そのうち返還拒否は286件(約34%)
(外務省HP)・・この数字をどう読むか?
<裁判管轄>
東京、大阪に集中(法32条)
<迅速>
6週間経過時の説明要求(法151条)
8 支援者として
日本で接するのは、外国から日本に子を連れて戻ってくるケースが多い?
または、外国人DV被害者で子どもを連れて帰国しようと考えている人からの相談等?
迅速な対応が必要=相談、通訳、資料収集支援等
(「重大な危険」の立証責任は、連れ去った方にある=原告有利)
9 今後
「家族」観の国際間ギャップが顕在化?
「親権」制度への影響も?(共同親権問題)
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